見出し画像

朝の銭湯はお正月に施設に残った人の特権だと思う

 このお正月休み、施設での生活で少し変則的だったことがあった。それは入浴である。
 noteでも何度か書いているように、施設には一応風呂はあるのだが、それでも基本的に行ける人は銭湯に行くことが推奨されている。銭湯に行くことで毎日の歩行訓練に繋がったり、いろんな人と関われるようになるための自立訓練の一つとされているからだ。
 しかしその銭湯がお正月休みの関係で、1月一日と三日がお休みで、二日は午前中しかやっていないとのことだった。
 一日と三日は館内浴になったが(入所者の人数が多かったのと、もともと館内浴の人が居たから)、二日に風呂に入るなら午前中のうちに済ませなければならなかった。
 朝から銭湯かー。正直めんどくさいなあと思った。というか、朝に風呂に入るなんてへんな感じがして落ち着かなくて嫌だった。
 まあ冬だし、どうせこの休みも自室で特に何もせずじっとしているだろうから、そんなに動き回ることもないから汗もかかないだろう。だから1日ぐらい風呂に入らなくてもいいか。当初はそう思っていた。
 だが施設仲間のSさんが、「朝の銭湯はいいよー。お正月から温泉に入れるなんて、こんな贅沢はないよ」と勧めてきたので、まあせっかくだしと、話のネタに朝の銭湯に行ってみることにした。

 1月二日の午前9時半前、いつものようにスタッフさんから風呂券をもらって施設を出た。
 外はやはり寒かった。いつも夕方や夜に銭湯に行く時ももちろん寒いが、冬の朝特有の澄み切った寒さという感じだった。そんな冷たい風に吹かれながら銭湯に行くのはやっぱへんな感じがする。

 「あけましておめでとうございまーす。今年もよろしくおねがいします」
 銭湯で風呂券を渡す時、番台のおじさんがそう声をかけてくれた。朝食の時の食堂と同じように、銭湯のテレビでも箱根駅伝がついていた。
「おめでとうございます。今年もよろしくおねがいします」
 風呂券を渡しながらおじさんに挨拶を返して女子の脱衣所に向かった。

 銭湯の玄関を潜った時にはあまりそう感じなかったけれど、女子の脱衣所はそれなりに混んでいた。すぐ隣にある男子の脱衣所や浴室の方からも、たくさんの人の話し声が聞こえてくる。お正月でもみんな銭湯に行くんだなあと、大阪に出てくるまで銭湯に行くという文化があまり根付いていなかった私はちょっとビックリした。
「おめでとうございます」
 ロッカーの前で服を脱いでいると、隣に来た知らないご婦人(もしかしたら向こうは私を知っているのかもしれない)が声をかけてきた。
「おめでとうございます」
 私もそう挨拶を返した。知らない人同士でも、「おめでとう」と言い合えるのってなんか素敵だよね。何だか気持ちがほっとする。

 浴室に入ると、いつもと同じ温泉の消毒の匂いが鼻を突いた。それでも朝にかぐこの消毒の匂いはとても新鮮だった。
 体と髪と顔を洗って、いつものように広いお風呂に入る。いつもよりほんの少し温く感じたけれど、まあたまにはいいか。
 続いて泡風呂にも入った。こっちもいつもよりもだいぶ温かったような気がした。それだけたくさんの人が入っているということなのだろう。
 そして最後に露天風呂に入った。冬の朝特有の冷たい風を浴びながら入る露天風呂は、思いのほか最高だった。本当に気持ち良かった。いつもよりも長く入ってしまった。

 朝から銭湯に入って、新年早々体も心も軽くなったようですっきりした気分になった。Sさんが勧めていた贅沢って、きっとこれのことだったのかもしれない。朝に銭湯に行くのもなかなか良いもんだなあと思った。
 Sさんも言っていたけれど、確かに朝の銭湯は、お正月に施設に残った人の特権だと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?