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まさかの玄関締め出し事件

 丁度1週間前の土曜日、ビアフェスと白杖修理から帰ってきた後のことである。

 夕食を食べ終えてから、施設仲間のSさんとZさんの3人で銭湯に行った。
 土日・祝日、および平日の夜7時以降は、施設に常駐しているスタッフさんが少ないので、防犯上の観点から玄関は施錠されている。そのため銭湯など外出する時には、宿直室でスタッフさんを呼んで玄関を開けてもらい、帰ってきた時は、ドアについているインターフォンを鳴らして鍵を開けてもらうことになっている。

 この日も3人揃って銭湯から帰ってきた。
 Zさん「いやあ、危なかったー」
 私「どうしたの?」
 Zさん「エアポッツのブルートゥースイヤフォン銭湯に忘れてくるところだった」
 私「よかったねえ、早く気がついて」
 Zさん「あれ3万もしたんだよ」
 私「さすがにイヤフォンに3万はかけられないなあ」
 Sさん「おまえそんな物まで銭湯に持っていってるのかよー」
 そんな話をしながら鍵が開くのを待っていた。しかし5分ぐらいたっても、スタッフさんが降りてくるような気配がない。

 私「ねえ、遅くない?」
 Zさん「確かに。何してるんだろう」
 Sさん「まあそういう時もある」
 そういえば去年の夏ぐらいにも似たようなことがあった。あの時も5分ぐらい待たされただろうか。

 私「Yさん(この日の宿直スタッフ)トイレに行っていてインターフォンが鳴ったの気がつかなかったのかなあ」
 Zさん「いや、あれ音が鳴ると点滅するから宿直室に戻って気がついたら慌てて降りてくるはず」
 私「そっかー。それならいいけど…」
 それからもたわいのない話をしながら待ち続けたが、ドアが開くことはなかった。そのうちにSさんの音声腕時計が8時の時報を告げた。
 確か銭湯を出たのは7時50分前後だったと思う。ということは、もう10分ぐらい待ち続けていることになる。

 私「ねえ、さすがに遅くない?」
 Zさん「いくらなんでも遅すぎるよなあ」
 Sさん「おいちょっと誰か電話してみろよ」
 私「えー、めんどくさい」
 Zさん「Sさんかけてくださいよー」
 Sさん「今携帯持ってない」
 二人「えーっ!」
 ここ2.3日外はだいぶ暖かかったけれど、この日に限って風がものすごく冷たかった。普段ドライアーを使わないので、銭湯で洗ったばかりの髪が冷えて寒い。このまま見回りに来るまで気づかれなかったらと少し不安になる。

 と、近くで誰かの声が聞こえた。もしかしたらスタッフさんかもしれないと期待してみる。
 Zさん「なんだ外か」
 残念ながらその淡い期待は一瞬で打ち砕かれてしまった。

 Sさん「おいどうする?」
 私「ねえ、代表でZさん電話してよ」
 年齢も年下だし、施設に入ったのも私の1カ月後なので後輩に当たるのを良いことに無理やり頼んだ。電話をかけるのが苦手だからである。
 Zさん「えー…。まあ分かりましたよ」
 少し(いやかなり)嫌そうではあったが、一応Okしてもらえたのでよかった。なんて悪い先輩なのだろうと自分でも思う。

 間もなくして、管理宿直のスタッフさんが降りてきてくれた。
「やっと入れたー!」
 ドアが開いた瞬間、心からそう思った。
 1階の廊下は暖房がついていないはずなのだが、中に入った時ものすごく暖かいように感じた。それだけ外が寒かったのかもしれない。
 結局私たちは15分ほど玄関で締め出されていた。

 その後宿直スタッフのYさんに一連の出来事を話した直後分かったことなのだが、どうやらインターフォンのスイッチが切れていたようだ。
 まさかの締め出しの原因に、「そりゃあなかなか気がつかないわけだ」と3人で大爆笑してしまった。
 それにしても、あの時締め出されたのが私たち3人でよかった。もしこれが一人だったら、きっとパニックになっていただろう。

 そんなわけで、まさかの玄関締め出し事件は、私たち3人の中で、この施設での印象に残る思い出ベスト3に入りそうなぐらい衝撃的な出来事だった。

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