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生まれつき全盲の視覚障碍者にこそちゃんとした性教育を

 先日たまたま聞いていたスペースで、とある全盲の男性がつるし上げられていた。
 具体的な内容は分からないが、話を聞いた限り、どうやらその男性は、未成年や障碍者といった弱い立場の女性に手を出していたというのだ。しかも何人も。
 話を聞いていて驚いたというか呆れたのは、つるし上げられている全盲男性の言葉から伝わってくる態度だった。
 あれだけ長い時間スピーカーの人たちから責められたり、怒鳴られたり、時には諭されたりしているにも関わらず、彼の口から出てくる謝罪や反省の言葉からは、謝罪や反省はもちろん、罪の意識が全く感じ取れないのだ。
 それはもう呆れを通り越して恐怖すら覚えるほどだった。
 でも少し落ち着いて考えてみると、たぶん彼は今自分が何を言われているのか、自分は何をしてしまったのか、何が悪いのかが理解できていないのではと思った。
 もしかしたら彼には視覚障害以外にも、何か他の障害を持ち合わせている可能性もなきにしもあらずだが、私はそれよりも、彼がちゃんとした性教育を受けられていないことが、この問題の1番の本質ではないのかと思ったのだ。
 話を聞いていると、その彼も盲学校出身者のようだ。
 私も幼稚園から高校までずっと盲学校育ちだが、確かに盲学校では性についての話はほとんど教えてもらえなかった。
 これは盲学校でもそうだが、障碍者が性について話すのはタブーとされているような風潮がある。
 私はこの風潮にずっと納得がいかなかった。
 それについての話は、過去にエブリスタで投稿していたエッセイ『続未熟者の衝動』の中の、『学校で教えてほしかったこと』の中でも詳しく書いているので、もしよかったらそちらの方も参照していただきたい。

 続未熟者の衝動
https://estar.jp/novels/23937153

 そのスペース内で彼は何度となく「性欲の満たし方が分からなかった」と弁解していた。
 もちろん彼を養護する気はさらさら無いが、性欲の満たし方が分からないというのは、ちゃんとした性教育を受けてこなかった身としては、大きな悩みでもあり、ものすごく辛くて苦しいことなのだ。
 生々しい話になるが、じつは私自身、20代後半になるまで、自慰行為ができなくてものすごく悩んでいた。
 どうやってすればいいのか、具体的なやり方が分からなかったからだ。
 それが体や脳が覚えている元彼との行為の記憶を思い出すことで、ようやくできるようになった。
 目が見えている人、あるいは中途で失明した人なら、映像や画像を見れば、その状況を創造できるし、性行為がどのようなものなのかも見るだけで分かると思う。
 しかし生まれつき全盲の視覚障碍者には、性行為についての説明を聞いたり、そのような音声を聞いたりするだけでは、その行為や状況が具体的にどのようなものなのかが分からないのだ。
 きっとさきほどの彼も、性欲の満たし方が分からないことに悩み苦しんでいたのだろう。20代前半の頃の私のように。
 私もその術が分からなくて本当に悩んだし、苦しかったし、辛かった。
 でも話が話なので、誰かに聞くことも、相談することもできない。
 ネットや本で調べてみても、そこに書かれている状況が創造できないのでいまいちピンとこない。
 それが分からなくて、誰かや自分自身を何度となく傷つけてしまっていた時期が私にもあった。
 そのことをさきほどの彼の件で改めて思い出して、自分も深く反省させられたのだった。

  いろいろと賛否はあると思うが、私はこれだけは声を大にして言いたい。
 生まれつき全盲の視覚障碍者にこそ、ちゃんとした性教育を受けさせるべきだと思う。
 さきほどの彼や過去の私のように、性欲の満たし方が分からないがために、他人や自分を傷つけてしまう人をこれ以上増やさないためにも。

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