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『PM!! 』(第1話)『今日からお前はPMだ!』 ボディソープ(TAO植物まみれ)

 左庭大介が新橋の町を走っている。
遅刻だ。昨夜遅くまで配信ドラマを見ていたせいだ。10時半。路地から路地へと走る。人混みを駆け抜ける左庭はさすが元サッカー部だけにステップがいい。勢いよく会社の入っているビルの階段を駆け上がると、オフィスの扉のセキュリティに社員証をぶつけるようにして扉を開けた。
「おはようございます!」
「おお、重役出勤」社長・チーフプロデューサーの武藤が首を鳴らしながら太い声で言った。
「あ・・すいません。昨夜、遅くまで資料探ししてて」と、嘘つく左庭。
「嘘つくんじゃねーよ。ここんとこ暇だったから夜中まで歌ってたんだろ?」
「いえ、歌ってはいません」
「ネットドラマでもハマってたか?」と菅原CPがからかう。
「いえ、あの」
「まぁ、いーや。ちょっと来い」と手招きされ武藤のデスクへ。
「はい、これ」
渡されたのは名刺BOX100枚入りを二箱。
そこには、『ラッセルフィルム プロダクションマネージャー 左庭大介』と、ある。
「え・・」
「あ、お前、今日からプロマネ昇格だから。ちゃんと頼むよ」
「・・(嬉しい)はい!ありがとうございます」と名刺を受け取り大事そうに抱える。
「よかったねぇ。ま、よく、一年持ったよ。鈴木君の下で」と、デスクの里村がしみじみ。
「人聞き悪いっすよ。メイコさん。俺はクラッシャーじゃないすから」
「今まで、何人の新人が辞めて言ったことか・・」遠い目をする里村。
「さーて、ロケハン行こっと・・」出て行く先輩PM鈴木。
「左庭、しっかりやれよ」と声をかけた。
「あ、はい。ありがとうござ・・」
「左庭!」と武藤に呼ばれる。
「はい」
「で、お前のプロマネ第1作目だが・・中邑頼むぞー」
「ウイース」と手を挙げる中邑プロデューサー。今どきの感じ。
手招きする中邑のところに向かう、左庭。
「はい、企画コンテ」
「あ」
渡されたコンテは、TAOのボディソープだった。ラッセルフィルムのレギュラー仕事だ。
「頼むよ。スタジオワンデイだから余裕っしょ?」
「はい・・いえ、頑張ります」
「これ、スタッフリスト、一応俺から連絡してあるけど、お前からも各事務所に挨拶がてら連絡しといて」
(これかぁ・・俺の初PM仕事は)
グッときて、そのコンテを見ると、左庭の大好きな若手女優・豊島遊。
(おおっ、遊ちゃん!)
密かにずっと応援していた甲斐がある。半裸の遊の前で、カチンコをビシッと打つ自分を想像し、にやける左庭。
「あ、そーだ。左庭―、撮影、泡師呼んでおけよ」
「は?泡師ですか・・すいません、それはどなたの?」
「え?お前、泡師知らないの?はあ・・そっからかよ」
「すいません、まだ習ってなくて」
『泡師とは・・石鹸系のCMには欠かせない職人のことで、それはもう、きめ細かい泡を作り出すスタッフのことだ』
「西やんだよ。今、電話番号ラインすっから、ちゃんと挨拶しとけよ」
「あ・・はい!」
(泡師か・・)
どんな人なのか想像する左庭。
「あ、今日の16時、演コン発注、小園ちゃん呼んでるからな。すごろくさんも来るから」
「はい」
「それまでに・・」
「実行組んで見ます」
「・・(わかってるじゃないか)」と頷く中邑。
●実行予算とは?見積もりやあらかじめ決まっている制作費に対して実際に出て行くであろうお金を計算し、あらかじめ把握しておくデスクワークで、これはPMにとって大事な仕事である。
●演コン打ち=演出コンテ打ち合わせのことで、この場合広告代理店が立ててクライアントに通った企画コンテをより実際的な撮影プランにするために、CMディレクターを呼んで打ち合わせることである。ここでボタンをかけ間違えるとえらいことになるので大切な儀式である。
 
夕暮れ。のんびりした風貌の丸メガネのおじさん小枝六郎がやって来る。
「やー、いい天気だねー。あんまり天気いいから焼き芋買っちゃったよ。はい、これ差し入れ。今日もきれいですねー、めい子さんは」
「あらー。すいません、小枝さん。今、美味しいお茶淹れますから」
「はいはい」
会議室で焼き芋食べながら、窓外を見ている小枝CD。
「お茶、どうぞ」
お茶出しする左庭。
(この人が小枝六郎CD・・通称スマイリー小枝、そしてすごろくさん)
「いやー、どうもどうも」とお茶をすする。
そこに入って来る、中邑プロデューサー。
「遊ちゃん、絶好調ですもんね。今回のもしかして・・6年に一度の」
「ふふふ・・だといいけどね」
そこにディレクターの小園が入って来る。妙に明るい男でテンション高く会社のメンバーに挨拶している。
「どうもー」
「あ。小園さんお疲れ様です!」
●この男、演出の小園アキラ(40)しっとりしたトーンのCMには定評があるが、とにかく人物が軽い。
●演出コンテ打ち合わせ開始。あーだ、こーだ・・と始まり、やがて終わる。
「カメラは大石さんで、ライトは山崎さん、美術は竹田さん、スタイリスト、ヘアメイクは遊ちゃん事務所指名の・・ああ、原田さんかぁ。HMは久保ちゃんね。押さえてるなぁ、いいとこ。このメンバーなら問題ないっしょ」とうなづく小園。
「泡師は?」と、小園監督。
「西やんに連絡してます」と、中邑。
「久しぶりだなぁ・・西やんの泡で撮るの」
「違いますからねー、きめ細かさが」
「ですねー」と小枝。
(なんで、そんなにすごいのかわからない左庭)
 
それから数日経って・・。
「おい、今日何時だっけ?」
「18時です」
中邑の口調が少し荒い。
「スタジオは?」
「スパファク第二キープです」
「何?ダメじゃん」
「西宝6スタ第二キープです、16時に返事きます」
「他は?」
「どこもダメです・・」左庭、撮影スタジオを押さえられていない。
「お前、何やってんだよ。スタジオ押さえてないのにオールスタッフやるって、笑われちゃうよ」
「す、すいません・・この時期どこもいっぱいで、軒並み断られて・・」
「ありえねー。お前、ナメられてんじゃなのか、スタジオ営業に」
「すいません!」
「熱意が伝わってねーんだよ!電話とメールばっかで仕事してっからだよ!」
「18時までにスタジオ押さえらんなかったら絞め殺すからな!」中邑がめちゃくちゃ怖くなってる。
「スタジオ・・行ってきます。直談判します!」
飛び出して行く左庭。
「そんな今どき・・昭和な鍛え方」と呟くデスク里村。
「まーねー」と中邑。
「でも・・」
新橋を走る左庭。電車の中から、スタジオ営業にメールする左庭。
「これから伺います!」
ちょっと焦り気味の左庭。
電車が走る。
スタジオに飛び込む左庭。
「羽村さん!羽村さんいらっしゃいますか?」
「あ、ラッセルフィルムの左庭です。あの、それで・・」
「あー、まだ6日は第一キープ外れないよ」
「いつわかりますか?」
「うーん・・」
「今日の18時からオールスタッフなんですよ。それまでに決まらないとオレ・・」
そこに、やって来る大手制作会社・南西新社のPM。
「あー、高村さん、お疲れ様ですー。撮影順調ですか?」
羽村の態度が明らかに違う。
「あ、羽村さん。まー、なんとか。てっぺん回らないと思いますよ。それよりこの辺で美味しい町中華教えてもらえませんか?代理店行きたいって、急に」
「あー、それなら、駅前の新雪軒かなー。タンメン美味いすよ」
「助かります。タクシー呼んじゃいます。予約は?」
「こっちで入れときますねー」
「あ、そーだ。来月の5日建て込みの6日、7日のキープ、バラシでいーすか?ジャ●ーズ、ドタキャンす。参っちゃいますよー」
「えー!それは急ですねー・・わかりました」
そのやりとりを聞いている左庭。すかさず、割り込む。
「うちで、そこもらえますよね!」目が怖い。
「でも、そこ待ってるとこ他にも・・」虚どる羽村。
「いえ、うちでお願いします。今ここで決定で入れますので!」頭を下げまくる左庭。
「うーん・・」
「この仕事、オレの初めてのPMの撮影なんです。どうしてもこのスタジオで撮りたいんです!ここ、オレが会社入って初めて撮影手伝いにきたスタジオだし、それに、あの・・」
その必死な様子に少し打たれる羽村。
「顔合わせて頭下げられちゃうとなぁ・・左庭さんにはかなわないや」
「じゃぁ・・」
ダッシュしている左庭。中邑に電話している。
「西宝6スタ押さえましたっ!!」
喫煙室でニヤッとした顔でタバコをくわえている中邑。
ダッシュしている左庭。
●オールスタッフ打ち合わせ
万通堂の面々 営業山本・CD小枝・プランナー大仏
スタッフ 演出小園・カメラ大石・照明山崎・美術竹田、遅れてスタイリスト原田、ヘアメイク小久保・・それぞれに適宜助手も来ている。
中邑が万通堂の紹介。
「えー、それではオールスタッフ始めさせていただきます。こちらから万通堂の小枝CD」「よろしくお願いしますー」
「プランナーの大仏さん」
「よろしくお願いします」
「営業の山本さん」
「よろしくお願いします」・・と、延々と紹介が続き、その間に左庭、演出コンテとスケジュール表、セットプランなどを配る。
「では監督の方から演出コンテの説明を・・」
「はい。今回のCMは遊さんのコケティッシュな感じを全面に出しつつ、ボディソープ・植物まみれの世界観をナチュラルなトーンのセットイメージの感じで、どちらかというとリアリティよりはファンタジー寄りに・・」
(何言ってるか全然わかんない・・)内心思う左庭。
「あとは、肌感、ギリギリ攻めた感じで胸のラインとか狙いたいな、と」
「任せてください」と大石がニヤリ。
「あ、泡師は西やん呼んでます」と中邑がいった。
「おお・・」となるスタッフ。口々に遠い昔の話をし始めるが長くはしない。
(こんなにみんなが認めてる西村さんってどんな人なんだろう・・)左庭は思う。
つなぎのおにぎりがテーブルに並べられる。近所の定食屋に頼んで左庭が用意したものだ。
「あー。松宮のおにぎりじゃん。ここ美味いんだよねー。ラッセルさんと言えば松宮だよね」
「左庭くん、わかってるなー」
褒められてちょっと嬉しい左庭。皆、鮭だ昆布だツナマヨだとおにぎり食べながらいい感じで打ち合わせが進んでいる。営業の山本の電話が鳴る。
「えーっ!!?マジすか!!」
ギョッとなる。スタッフたち。
「はい、はい・・今、すぐそちらへ行きます!」
「どうしたのー?」呑気に小枝が聞いた。この人は滅多なことでは慌てない。
「豊島遊が、フライデーされました」営業・山本がげんなりした。
「ええっ?」スタッフ一同驚く。
「不倫です」山本が力なく言った。
(え・・あの遊ちゃんが??不倫って・・)
「とりあえず、豊島遊の事務所へ行って事実関係把握して来ます」焦って出て行く山本に小枝が声をかけた。
「頼むわ〜」
「飛んだなー、仕事」と小園Dir.
「いやいや・・そこはわかんないじゃないですかー」と取りなす中邑。
「いろいろあるねー。ここはさ、まずはおにぎり食べて報告を待とうよー」と、小枝が呑気に言う。「ね、左庭くん」
「あ、はい・・」
「はいじゃねーよ」と、大石がからかった。
「あ、すいません」
みんなが笑った。
しかし不安を隠せない左庭・・。
翌日、小枝CDがラッセルフィルムにやってきていて、社長の武藤となにやら話し込んでいる。そこに中邑が手招きで呼ばれて、驚いている様子をチラチラ見ている左庭。今度は左庭も呼ばれる。オレ?と合図するが、いいから早く来い!と中邑に合図される。
「タレント変わるからな」中邑が言った。
「は?」
「3日後めどで緊急オーデションやるから。スタッフに連絡しとけよ」
「左庭くん、そういうことだから。心して頼むよ」と小枝が言う。
「・・・」左庭なんのことかついていけてない。
いかに、このスキャンダルで、クライアントのおばさん担当、宣伝部、が暴れたかを面白おかしく説明する小枝。
「いやー、遊ちゃん、うちのキャスティングだからねー。身体検査が甘いとか言われてもねー。政治家じゃないんだからさぁ。私生活までね、調べきれないよね〜。でもまさか、あんな年上のなぁ・・」
「堤下潤もこれから生き地獄ですね。CM結構やってるし」と武藤が言った。
「うちの会社も何本かやってるでしょ、来週から大変だよ〜」と小枝。
「左庭、わかってるだろうけど、極秘に進めるぞ。スタッフに口止めしとけよ。バレたらえらいことだからな。幸い<植物まみれ>のタレント契約はまだしていなかった。来週発表だったんだよ。ギリギリで撮影飛ばさずにいけそうだ。えーっと、コンテはそのままですよね?」と武藤。
「まぁねー、そこは握ってきたから」と小枝。
「さすがです、小枝さん」と中邑。
「やるときはやりますから笑」と小枝。
「とにかく、監督に連絡して来てもらって。あと、ほかのスタッフにはスケジュール通り行くからって」と中邑が指示する。
「は、はい」
「あと、キャスティングの・・そうだな、このタイミングだから谷内さん、すぐ連絡して押さえて」中邑が手帳を見ながら言った。
「そうね、今、うちのキャスティング信用なくしちゃったからなぁ」と小枝。
「谷内さんには事情はオレから後で連絡しとくから」と中邑。
「はい」
「じゃ、あとはうちの方でまとめて、夕方までには進捗ご報告しますんで」と中邑。
「いいな、左庭」と中邑。
「はい」
「小枝さん、お昼まだでしょ。裏の寿司でも軽く行きませんか?」と武藤。
「あー、いいねー」顔をほころばせる小枝CD。
「じゃ、あとは任せたからな」と睨みを効かせて連れだつ小枝と武藤。
「普通」と中邑。
「は?」
「飛ぶよな、この状況だと」中邑が続ける。
「はあ」
「それを飛ばさず、仕事にしてくんだから、さすがだよな、あの二人」と中邑。
「・・」
「左庭。任された以上、豊島遊以上の素材見つけて、撮影乗り切るぞ」中邑が言った。
「はい」
 
翌日・・。テーブルの上にズラッと並べられた新人・新進女優のポートフォリオと映像資料。
「誰にする?」とテンションが高い谷内キャスティング・ディレクター。
「えっと・・」と、左庭。
「あんたに聞いてないわよ。監督に聞いてんの」谷内が言う。
「うーん・・この状況だと、監督の好みなんて意味ないからなー」と小園が答えない。
「そう言わない!」と、谷内が叱責する。キャラの濃いおばさんだ。
「なら・・彼女」と小園が指差したのは三階堂ゆみだ。
『三階堂ふみ・・デビューして二年。映画「宵待ち」で鮮烈な印象を残し、その年の映画祭の新人賞を総なめにした逸材。すでに公開待機作が数本の大型女優。』
そこに小枝が大仏と山本とやって来る。
「あ!」と滅多に発言しなかったプランナー大仏が声をあげる。
「僕、ゆみちゃん大ファンです・・」
「これで2票か」と谷内が微笑む。
「小枝さんはどうですか?」中邑が振る。
「さすがに一人だけ持ってくわけにはいかないからなぁ・・もう一人選ぶなら?」
「門松米かな」と小園監督。
「うーん、どっちもいいねー」小枝が笑う。
『門松米・・昨年デビュー。深夜ドラマの二番手でブレイク。今期の日曜ドラマでヒロイン役に抜擢され、期待の若手女優で帰国子女である。』
「営業的にはどうですか?」中邑が振る。
「スケジュールとギャラは・・?」と営業・山本が心配そうに言う。
「スケジュールは二人とも撮影日大丈夫。予算も遊ちゃんの三分の一と四分の一」
「それは助かります!」山本がホッとする。
「監督的にどっちでもいけるなら、ここはクライアント立ててお伺いしてみますか・・?」と小枝がまとめる。
「いいですよ」と小園。
「じゃ、第一候補・三階堂ゆみ、第二候補・門松米、ということで」と谷内が言う。
「はい」と中邑。
「じゃ、これから行くか?クライアント空いてるかな?山本くん聞いてみてよ」
どこまでも穏やかな小枝。すぐに電話する山本。
満足そうな谷内。仕事が早いのが自慢で、相手もそうだとすごく機嫌がいい。
 
撮影現場・・にいるのは二番候補だった門松米だった。クライアントのおばさまたちの間では三階堂より圧倒的に門松人気が高く、契約金が当初の豊島遊の三分の一というのも決めてとなったらしい。
「門松さんもいいけど・・」と不服そうだった小園も、いまはすっかり切り替えて門松米を可愛く撮ろうと熱心に演出している。
「やっぱり映画より、テレビの人気なんだよなぁ」と大仏が悔しそうに言っていた。左庭はそんなやりとりをぼんやりと思い出しながら現場では、走り回っていた。午前中に着衣のカットを終え、いよいよシャワーシーン。
「飯後、シャワーシーンいきまーす!」
金兵衛の弁当を並べて、スタッフに渡していく左庭。
「金兵衛か。肉と魚どっちにするかな・・」
泡師・西村だ。
「お疲れ様です!あの、飯後・・」
「泡いるんやろ。もう準備始めてるわ。」
「あ・・」その姿はどっかの建築現場のおっさんみたいだ。
(この人、全然オシャレじゃないけど・・ていうか相当CM現場で浮いてるんですけど)
「銀ダラやな」と、魚をチョイスする西村。
 
昼飯後、撮影再開。
泡師の出番だ。
「泡あとどれくらいですか?」
「急に言うなよ!あと少しでできるから」
バスローブを取るとギリギリの肌色チューブトップブラとパンティを着けてカメラ前に入る門松米。監督とカメラがアングルを最終的に決める。湯気がほんわりと炊かれる。バスルームのセットには柔らかい光が回っている。植物がいい感じに配置されている。フランスの田舎風バスルーム。一瞬、気をとられる左庭。目で中邑に睨まれる。
泡師・西村は手際よく泡を作る。作るプロセスは、石鹸を削りお湯で湯煎する。それを商品とブレンドしながらやはりぬるま湯で伸ばしていき、手でソープ嬢がトロトロ液を泡立てるかのように洗面器の中で両手で撹拌していく。その見事な手さばきに感心する左庭。
(これが泡師か・・・。)
さらに、ミキサーで泡をきめ細かく泡立て、ハンドブレンダーで作った泡と見比べつつ、混ぜて、カメラ前に洗面器に乗せた泡を持っていく。スタジオが石鹸の優しい香りで満ちる。
「あ、俺持ちます」手伝おうとする左庭が足手纏いになっている。
「お前、邪魔だって!泡消えちゃうだろ!」
「すいません!」
泡をヘアメイクの助手に渡し、彼女がタレントにいい感じにつけていく。
「本当は俺がやったほうが早いんだけどなー、今どきそういうわけにもいかんしな」と西村は不服そうだ。
(え、昔はダイレクトにつけてたのか・・・)と驚く左庭。
「泡、OK!」
「早くカメラ回して!はい、よーい、スタート!」
タレントが気持ちよさそうにシャワーで泡を流す。湯気がホワっと漂う。
門松米もいい表情している。スタッフが熱心に集中していい映像を撮ろうとしている姿、姿。
「カット!」
「どうですか?」
後ろのクライアント席の小枝やおばさんたちも満足そうだ。
「はい!OKいただきましたーっ!では、次、カット6いきまーす!」
左庭は生き生きと動き回っている。
社長の武藤が見にきている。小枝の横に座る。
「いや、今回はいい勉強させてもらってありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそラッセルさんのおかげで助かってます」と、小枝。
撮影現場で走り回る左庭。中邑が監督とコンテ確認している。
左庭が呼ばれて走る。
「左庭くん、元気いいねー」と小枝がニコニコしている。
「はあ。それがあいつのいいところですから」と武藤。
「西村さん、泡お願いしまーす!」と左庭が大声で叫ぶ。
「今、やってるって!」西村が応える。
「お前、そこ見切れてるよ!」とカメラマンに怒られる左庭。
「あ、すいません!」
泡がやってきた。
「じゃ、本番!カット6、テイクワン!」左庭が声をあげる。
「よーい、スタート!」小園の掛け声で、カメラが回り始め、左庭が勢いよくカチンコを打つ!
『俺のPM1本目、なんとか撮影までこぎつけました!』
カメラ前でしゃがんで、カットの声がかかるのを待つ左庭の顔。生き生きとしている。
後日。仕上がったCMは門松米人気とうまくシンクロし、商品も売れた。彼女はドラマもヒット。CMシリーズ化が決定となった。小枝CDはまさに6年に一度のヒットを出し、『すごろくさん伝説』を更新した。
左庭は・・今日も走っている。
次の撮影準備が始まったのだ。
 
 
 


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