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Russian Indie Guide Vol.5 -ロシアのポストパンクとカセットテープ-



来年発売のZINE PØRTAL ISSUE Ten より「Russian Indie Guide Vol.5」を先行公開。 

ロシアのポストパンクのフィジカル音源を探していると、カセットテープでのリリースを非常に多く目にする。今回はロシアのインディーシーン…特にポストパンクシーンにとって重要な存在であるカセットテープレーベルについて紹介したいと思う。
 
その前に、まずはカセットテープが登場した70年代後半~80年代のロシア(当時はソビエト連邦)の音楽シーンについても触れておきたい。
70年代後半~80年代、CDやデジタル音楽配信がまだ登場していないこの時代において、個人でも比較的簡単に作製出来るカセットテープは、インディーズアーティストの音源をリリースするためのメディアとして世界的に主流なものだった。
ソ連の音楽シーンでもまた、テープは非常に重要な役割を果たしていたが、その理由には他国とは異なる政治的な側面もあった。
これまでの連載の中でも少し紹介したが、ソ連に存在したレコード会社は、国営レーベルであるメロディヤ1社のみ。つまり、レコードのリリースはメロディヤを通して行うことが必須だったのだが、メロディヤと契約・リリースを行うためには厳重な審査を通過する必要があった。
反体制と見なされることが多いロックアーティストたち、特に西側の影響が顕著なニューウェイヴ/ポストパンクのような音楽性の者たちがこの審査を通過することが困難だったというのは想像に容易いだろう。
メロディヤからリリースを行えないバンドたちは、音源はを自主製作によるカセットテープとオープンリールテープにより製作。それがテープからテープへのコピーによって普及していくこととなった。
 
このような歴史的背景が直接影響しているかは不明だが、現在のロシアではポストパンクバンドのカセットテープを積極的にリリースする魅力的なレーベルが多く存在する。
また、Russian Doomer MusicやSoviet Waveといったサブカテゴリが確立されているロシアのポストパンクだが、それはあくまで一部のコアなリスナーによるムーブメントであり、このようなアーティストはロシアにおいてオーバーグラウンドな存在となっているわけではない。
そのため、単純に安価に製作できるカセットテープが好まれるという理由もあるかもしれない。
理由は何にせよ、カセットテープというメディアの持つDIY的な性質は、ポストパンクの持つ音楽性やスタンスとも相性が良いように感じるし、テープの音質の生々しさや良い意味でのローファイ感も、ロシアのポストパンクの多くが纏っている閉塞的でメランコリックなムードともマッチしており、非常に魅力的な組み合わせに思う。
 
ここからは、ロシアのインディーアーティストのリリースを行い、シーンを支えているカセットテープレーベルをいくつか紹介したい。
 
・Sierpien Records
ロシアのポストパンクを知るうえで欠かせないのがサンクト・ペテルブルクのSierpien Recordsだ。
ポストパンクバンドSierpienのメンバーによって設立されたこのレーベルは、ロシアのオブスキュアなポストパンクやダークウェイヴのカセットテープ・CDを非常にアクティブなペースでリリースしている。
Стереополина (Stereopolina)やКонец Электроники (The End Of Electronics)のように、ロシアンポストパンクファンにはお馴染みのアーティストはもちろん、Дурной Вкус (Durnoy Vkus)やLurveなど、注目すべきニューカマーもいち早く発見し、リリースを行っている。
ロシアンインディーを知りたいときに、まず再最初にチェックするレーベルとしてもオススメだ。

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