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ゴキブリ、ネズミがいても家がいい

認知症基本法

目的

認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすことができるよう、認知症施策を総合的にかつ計画的に推進

認知症の人を含めた国民一人一人がその個性と能力を十分に発揮し、相互に人格と個性を尊重しつつ支え合いながら共生する活力ある社会(=共生社会)の実現を推進

厚生労働省HP

訪問介護の現場


私は訪問介護の現場で常勤ヘルパーとして勤務してきました。その後、サービス提供責任者(サ責)として、更に利用者、そして、家族と密に接してきた中で数多くの事例に触れました。

家というものの居心地の良さは、本当に人それぞれの価値観であると感じましたし、在宅介護の限界ぎりぎりまで自分らしく生活される利用者様の幸福感を一緒に感じることもできました。


初めてのゴキブリ


この仕事をするまでゴキブリを見たことがなかった私は、各々のお宅で遭遇するゴキブリ達に衝撃を受けました。

訪問介護は身体介護と生活援助に分かれて支援しており、
身体介護は排泄介助、入浴介助、更衣や移動の介助など、主に体に関する支援です。一方、生活援助とは掃除、買い物代行、調理など生活の支援です。

正社員ヘルパーですと、日に7、8件のお宅を訪問することもあり、オムツ交換したら、車で移動し、別なお宅で掃除、また移動し、次はお風呂に入れて、また移動し、次のお宅では冷蔵庫にあるもので調理・・など目まぐるしくサービス内容が変わります。

更に安全に利用者が生活できているか、体調確認をしながら、異変のチェックもするわけです。

そんな中、衛生状況に疑問があるお宅も多々あるのが現実です。

ゴキブリとの出会い、ある時は浴室、ある時は洗面所、もちろん台所ではゴキブリの視線を感じることもありました。

初めてのネズミ


ネズミとの初めての出会いは、過去一番の衝撃でした。

オムツ交換で訪問するお宅でのこと。故障のままで洗面所の湯が使えず、洗浄で使う湯を台所で用意するという指示があるお宅でした。

夕方、台所へ行くとグレーの物体が流しに潜んでいたのです。物体と目が合った私は一旦、思考停止状態。
同時にグレーの物体も動きを止めたと同時にシンクを上がろうと必死になりました。『シャカシャカシャカ・・・・』

あの音と共に今も蘇る、ネズミとの遭遇です。

家がいい


ゴキブリがいても、ネズミがいても、家がいいの?

当時の私は謎でした。
金銭的な理由や家族の意向もあるのですが、多くの利用者さんはそれでも幸せそうなのです。施設なんか行きたくない、ここがいい、ここで死にたいと言う方がほとんどでした。


ゴミ屋敷の結末


ゴミ屋敷と言うと語弊があるかもしれませんが、とにかく物を捨てられない、買い込んでしまう、という利用者さんもいました。台所の床は足の踏み場もなく、冷蔵庫は賞味期限切れの食品がパンパンに入っている状態。いつ買ったか分からないキャベツが液体になっていて、足を滑らせてしまうこともありました。

書ききれないほどのトラブルがありました。その方と最後に会った日のことは忘れられません。訪問時に「あれ?いない!」・・と思いきや、室内の物で埋もれ、顔だけが出ていて、「助けて」と呼ぶ利用者さん。転倒し身動きが取れなくなっていたのです。発見しなければ、大変なことになっていました。結果、救急搬送され、入院。在宅サービス終了となりました。


本当に家がいい?


不便で、下手すれば不潔で、危険で、豊かさは感じられなくても、心は豊かであるように感じてしまう在宅生活。

認知症基本法にあるように本人の尊厳を保持はしても、希望を持って暮らすという部分には当てはまらないのかもしれません。

専門職の見極めと判断時期が大切になります。


隠された本音


私は今、夫の経営する不動産会社で高齢入居者の見守り事業を担当してます。個人所有の物件で自宅で暮らしたいという場合、衛生状況が悪くても、危険でも、その本人の責任でありますが、賃貸物件である場合、そうもいかないのです。

衛生状況は臭いとなり、隣室に影響しますし、火災や騒音でも密接に迷惑をかけることになります。

そういったトラブルに向き合い、行政機関と連携をとりつつも個人間契約であり、見放されることが多いのが現実です。契約時は普通に暮らしていても、年月が経ち問題が出てくるようになる。そのほとんどは単身の入居者さんです。

そのトラブルの根底には『孤独』『孤立』が関与している。業務で関わりをもったことで特に感じます。

賃貸住宅では特に近所付き合いは希薄で、関心を持たないことから、どんな人が暮らしているかも分かっていないことがほとんどです。すぐに苦情にも繋がります。

正直、誰が悪いのか分からなくなることもあります。

認知症であっても、そうでなくても相互に人格と個性を尊重しつつ支え合い共生する。

単身高齢者の増加が加速していく状況で、上記一文がポイントだと思います。共生。共に生きる。これが難しい世の中だと感じています。

ゴキブリやネズミとの共生どころではない、在宅生活の難しさがあります。


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