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仕事つくる#36 田舎で4つの実業を営んでいる僕が考える、負けないビジネスモデルの組み立て方

僕は田舎に住みながら4つの小さな実業を営んでいます。それぞれに特性が異なっていることもあって、多動症である僕の好奇心を十分に満たしてくれています。すべて無垢の素人からスタートしているので、ある程度軌道にのせるまでたくさん苦労してきました。現在進行形のものもありますが試行錯誤の中でそれぞれの事業を成立させるための「肝」が見えてきました。本日のnoteでは「肝」の中でも特に重要な「負けないビジネスモデルの組み立て方」についてまとめていきたいと思います。

最近では、独立といえばコンサルタントやデザイナーといった「事業家をサポートする立場(以降:サポート業と呼ぶ)」が主流になっています。基本的に人件費や仕入れがかからない仕事なので限りなく失敗しにくい独立の方法だといえます。一方で実業は仕入れや人手を有するものがほとんどであり、サポート業に比べたら随分リスキーといえるでしょう。しかしながら、エンドユーザーから直接感謝される楽しさは一入であり、商品サービスを通じて自分の色を出せるという掛け替えのない面白さがあります。

僕は、大勝ちを狙わずにまずは負けないビジネスモデルの構築に集中するタイプの人間です。孫子の兵法で云われる「勝ちを確定させてから戦さをする」という考え方が好みです。したがって今回のnoteにも大勝ちする方法は一切書いておらず、そもそもわかりません。これから記載することは負けにくい体制のつくり方です。

これを言葉しておくことは非常に大切だと思っています。言葉は曖昧なことを許さないので、やるべきことの解像度が上がります。これから実業にチャレンジされる方々にとって私の経験が少しでもお役立ちできればうれしいです。


実業の成立を定義する

僕が考える実業の成立条件は以下の2つです。

☑︎ 集客のリズムがつかめていること
☑︎ 同じ業界のサラリーマンよりも効率よく収入を得られていること

それぞれ見ていきます。

集客のリズムですが、これがつかめていなければ常に営業活動を繰り返さなければなりません。ビジネスの最も川上に位置するのが集客なので、ここが予測できない状態は事業として不安定です。また、お願い営業の原因にもなり悪い循環を生んでしまいます。このことから、集客のリズムをつかめていることは実業が成立している条件として必須項目と考えます。

続いて収益効率については、たとえば通常1000円の相場の商品を3時間かけてつくって900円で販売して売れていたとしても、それは当たり前のことであり、普通に考えて事業としては継続し難い状態といえます。本人の尋常じゃない努力によってなんとか支えられている状態は事業として破綻しています。独立したてはまだしも、ずっとこの調子でやり続けている方々は少なくないように思います。そもそも、自分がオーナーになって事業をするということは、顧客と直接取引になるわけなので同じ業界で働くサラリーマンよりも収益効率がよくなって当たり前です。そうでない場合は何かがおかしいと早々に気づくべきです。

まとめると、「数ヶ月先の売上の検討がついていて、事業の存続に必要なだけの収益を確保できている状態」。

これが僕が考える実業の成立条件です。


集客のリズムはリピートで組み立てるのが基本

集客リズムは、"確実性の高い"リピートでつかんでいくのが最も理想です。確実性の高さをあえて強調したのは、同じリピートであっても商売の特性によってほぼ確実にリピートされるものと、気まぐれでリピートされるものに分かれるからです。

確実性の高いリピートの例として、美容室やネイルサロンが挙げられます。美容室が扱う髪の毛は一定時間経過すると伸びてくるので、その都度ケアが必要になります。ネイルサロンが扱う爪も一緒です。このように、ケアが必要になるサイクルが自然発生するものを対象にしている商売はリピートによって集客リズムをつかみやすいといえます。たったの4年間で100店舗まで店舗展開をした髪質改善専門の美容室「Dears」では、現場の従業員に意識させる数字を次回予約率のみに絞っています。次回予約率が90%を超えていてほぼ確実にリピートで売上を確保しているので、勝ち戦を確信した上で店舗運営・展開が可能になります。

一方、旅館などの宿泊業でもリピート率は同じように意識される数字ですが、美容室のように「何月何日に次回予約」とはいかず、リピートするかどうかは顧客の気まぐれになります。この場合、リピートを基本としてビジネスモデルを組み立てるのが非常に難しくなり、別の方法で集客のリズムを模索する必要があります。

集客のリズムについて僕が行なっている4つの実業を例にして考えてみます。


チームオーダーを基本としたスポーツウェア販売については、顧客であるスポーツチームに新メンバーが加わったりユーザーが体格的に生長することによって半自動的にリピートが発生するため、比較的にリピートモデルを組み立てやすいジャンルだといえます。リピート売上のみで損益分岐点をクリアしておき、その上で新たに新規受注を増やして事業を堅実に成長させていくモデルです。

木質バイオマス熱供給事業(薪を燃やして熱需要施設に熱を販売する事業)についても、熱需要施設が営業し続ける限り売上が確保されるので、リピートを基本にビジネスモデルを組み立てやすいジャンルといえます。同じく、中古物件を修繕して行う賃貸業についても、賃借人が住まい続ける限り家賃収入を得ることができるので、確実性が高いリピートモデルであるといえます。

スポーツウェア販売と戸建賃貸業を組み合わせて戦う方法について詳しくまとめたnoteがありますのでよかったら読んでみてください。

最後にゲストハウス事業についてですが、先述した旅館業同様にリピートするかどうかは顧客の気まぐれの要素が多く、リピートにより集客リズムを組み立てるのが非常に難しいジャンルといえます。そのため、以下で記載するようにリピート以外で「負けにくい体制」をつくり出す必要があります。

以下では、リピートモデルでは組み立てられない地方ゲストハウスのビジネスモデルについて、僕の考えをまとめていきたいと思います。


地方ゲストハウスのビジネスモデルの組み立て方

僕が経営しているあわくら温泉元湯は、岡山県の最北に位置する西粟倉村という小さな村にあるゲストハウスです。現在元湯の宿泊客には「元湯を目掛けて来る顧客」と「西粟倉村に仕事(視察含む)で泊まりに来る顧客」の大きくわけて2つのグループがあります。概ね前者6:後者4の割合ですが、後者の仕事需要は集客が難しい平日の需要をつくってくれている大きな存在です。しかしながら、目的が元湯以外に存在するために、悲観的に考えるならば「宿泊できれば元湯でなくても構わない」ということになり、いつこの需要がなくなってもおかしくないと想定すべきです。

そこから考えるべきことは、「コントロール可能な需要だけで損益分岐点を越えるようにビジネスを設計しておかなければならない」ということです。元湯でいえば金土日に訪れる「元湯を目掛けて来る顧客のみで経営可能な体制をつくる」ということになります。

そのためにも、①固定費を限りなく下げて損益分岐点を低くする、②ターゲティングを明確にして集客力を強化する、③客単価を徐々に上げていく、の3つを愚直にやりきって目標数値をクリアする必要があります。その上で「平日の需要はボーナス」と捉えておく方が健全だと考えています。それくらい実業は固く想定してやっと成立します。京セラの稲盛和夫さんが唱える「楽観的に構想し、悲観的に計画を立て、楽観的に実行する」を忠実にやってきたつもりです。名経営者といわれる方々は悲観的に計画することの重要性を十二分に把握して事業に挑んでいるので、日本航空(JAL)の再生という無理難題もやってのけてしまうわけです。

ちなみに現時点では確実に休日が埋まっているといえるまでは到達していないので、これからもっと宿としての魅力高めていく必要があります。

また、当社はもう一人社員を雇えるだけの余裕を残した上で、人手不足でありながら社員募集を打ち切っています。理由は、来年4月に行政が関与する宿泊施設が村内にオープンすることが決定しているからです。そのことにより来年度は平日の仕事客需要が通年に比べて7割減になると想定しています。この状況で社員を雇うのは危険なので、実態が把握できるまでは多少無理してでも住み込みの中長期アルバイトスタッフをうまく採用して、柔軟性に富んだ店舗経営をしていく方針です。長い目で見た時もう一人社員は必要なことは明白ですが、それに至るまでに確実性が不足していると現状判断しています。

いうまでもなく、4つの事業の中で最も成立させるのが難しいのがこのゲストハウスです。2年間でやっとビジネスモデルの組み立て方は見えてきましたが、その他の3事業と比べると難易度に雲泥の差があります。

なお、ゲストハウス1年目の教訓は以下のツイートにまとめてあります。


この経験から、これから新たに事業をつくる方々には「リピートモデルが構築可能なジャンルを選択する」ことを強くお勧めしています。


頑張らなくても死なない体制をつくった上で、楽しく頑張る

最近の僕のホットワードは「頑張らなくても死なない体制をつくった上で、楽しく頑張る」です。そもそも好きなことで起業しているので楽しく頑張りたい気持ちを強く持っています。

僕があらゆるビジネスモデルを作り込む上でとても参考にしている本に『小さな会社は「ドラッカー戦略」で戦わずに生き残る』というものがあります。第二章に出てくる「小さな会社は戦わずに売れる仕組みをつくる」は読み応えがあり、「必要最小限、何人のお客様がいれば成立するか」というレベルまで顧客を絞り込みなさいと説いています。何人の顧客がいればその事業は成立するのかを言葉で把握しておくことで、尖ったコンセプトを打ち出せるようになります。これが他と戦わずに自らの城を築ける方法です。目標売上の設定よりもよほど大切なことです。

検証を重ねた上で大胆にターゲットを絞ること、これが強豪大手と戦わないためのニッチ戦略の基本になります。そのためにも損益分岐点の売上構成(=平均単価×顧客数)をしっかり把握しておくことが重要です。

実際にやってみなければわからないことの方が多いのも事実です。特に必要経費は予想外にかかってくることが多いので、一年間走ってみて実態を把握することは非常に大切になります。ゲストハウス(元湯の場合)が難しいのは、「宿泊」「飲食」「温泉」と3部門に分かれていて、それぞれの部門ごとに「売上」「原価」「販管費」を分析する手間が発生するということです。しかしながら、分析をきっちりすることで経営資源を何に集中すべきかがはじめて見えてきます。自分でできなければ外注してでも数字を整理しておくことをお勧めします。ここを怠らなかったからこそ「客単価の高い宿泊客に焦点を絞って、さらに需要がコントロール可能な休日客のみで経営を成立させる」という負けない戦い方がやっと見えてきました。

まとめ

最後に、ここまで文章で記載してきたことを箇条書きで整理します。

確実性の高いリピートモデルの場合

① 損益分岐点を把握する
② 損益分岐点売上高の構成(平均単価×顧客数×リピート回数)を把握する。
③ リピートだけで①を超えるように設計する。
④ ③をクリアした上で新規獲得をして堅実に事業を伸ばしていく。
⑤ 顧客数が増えても対応できるように仕組化、組織化する。

地方ゲストハウスの場合

① 損益分岐点を把握する
② 損益分岐点売上高の構成(平均単価×顧客数)を把握する。
③ コントロール可能な需要だけで③を超えるように設計する。
④ ③をクリアした上でその他のイレギュラー需要を獲得していく。

両者ともに損益分岐点(要するに固定費)をいかに低く設定できるかが肝になります。そのことにより両者ともに③のハードルが下がりリズムを作りやすくなります。非常にシンプルで一見当たり前のように見えますが、すべてを把握した上でここに至っているので、開業当時よりも解像度は数段上がっています。得意のリピートモデルではない新たな戦い方でまた一つ城を築いてみたいと思います。

以上、それぞれ5000万円に満たない小さな実業ですが、本気で取り組んでみて見えてきた僕の考え方でした。何かの参考になれば幸いです。

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