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[ショートショート]セロリ


夏がテーマのみじかい話が思いついたので書いてみました👋

そのままPCのなかに書いたものを寝かせておくと、
来年の夏ごろまで寝かせたままになりそうなので
アップしてみます😄🙂🪴

いつもの連載ストーリーものと いっしょにどうぞ🙌🏼🙌🏼

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セロリ


中学1年の夏休み。
美術の宿題で、静物画を描くというものが出た。
 
静物画だから、花とか、果物とか、野菜といった題材だ。
 
 
自分は、美術で絵を描くことは、そこまで得意というものでも、
だからといって下手だけど描くことは好き!というものでも、どちらでもなかった。
 
宿題で出ているから ただ描く、
という、それだけだった。
 
早めにこの宿題もすませておきたいので、
そろそろもらった画用紙に、なにか題材を描いておこうと思う。
 
 
しかも、今回は得なのかどうか、
絵の具を使って描いていく。
 
………鉛筆画のように長く描き込む必要もないけれど、
そのかわりに、水や絵の具や筆を準備する必要はある。
 
なにか、……あまり絵の具のチューブの種類を
そこまで使わずに描けるものがいいのだけど……。
 
 
そこで、めんどくさがりの自分は、
まず何かいい材料がないか、冷蔵庫の野菜入れを開けた。
 
 
……花びんに花は生けてあるが、
花びらの1枚1枚を描くのはむずかしい。
 
 
それに、花は女子とか絵を描くのが得意な人が描くだろうから、
そこに自分の描いたものを加えるなんて発想はない。
 
(さらに、しっかりした人ならば、花びんまでも描いてくるだろう。
自分にはそこまで描くだなんて、考えられない。論外だ。)
 
 
こんな理由で、おれは冷蔵庫を開けたのだった。
 
 
中には、まず、ナスが入っていた。
……これを絵の具の塗ろうと思うと……黒色しか浮かばない……。
野菜の個体差もあれど、『ナスは紫色』と思った人の感性が計り知れない。
 
 
次に、キュウリが入っていた。……ナスよりは、色塗りが簡単かもしれないが、
ただ、問題はこの、皮にくっついているトゲトゲ感、ブツブツ感だ。
 
これをどう描けばいいものなのか……。
迷った時点で、これは無しだと考えることにした。
 
 
その次に、ジャガイモがあった。
 
うん、これはいい。
 
えんぴつで描くときに、そこまでむずかしくもないものだし、
さらに、絵の具で塗る時にも、色の濃い薄いの差だけつければ、あとは何とかなりそうだ。
 
 
決めた、夏休みの美術の宿題は、
ジャガイモを描くことにしよう。
 
 
………
 
画用紙を、横向きにして、
ジャガイモを下半分に、3つほどを描いていった。
 
ほどよくえんぴつの線画を描いたところで、
あとは一気に、絵の具で色を塗っていく。
 
 
 
 
……………さて、……………完成だ。
 
 
 
早めに美術の宿題を終わらせられて、
おれはほっとする。
 
 
………と、完成した絵を見て、わずかに思った。
 
 
(出来たのはいいものの……、何か、
色が地味だっただろうか……?)
 
 
いや、でもジャガイモに、
色が地味も派手もあったもんじゃない。
 
もともとジャガイモとは、そういうものなんだ。
 
 
そう思ったけれど……、
1度気になってしまったものは、もう後は気になってくるしか、
仕様がなかった。
 
けれども、もし描き直そうとしたならば、
……ジャガイモに色を足そうとしたならば、そのときには、もう色がにごって、
ヘンになってしまうだろう。
 
 
もらった画用紙は1枚だけだ。
なにか、いい方法は………。
 
しばらくそう考えていたら、母親が買い物から帰ってきた。
 
母親の持っているカバンから、セロリが
飛び出しているのが見えた。
 
―――しめた。これなら、いけるかもしれない。
 
長ネギほどには、描くのも面倒ではないだろう。
ちょっと葉の部分さえガマンして描ければ、あとは色塗りもラクそうだ。
 
 
おれは母親から これを借りた。
 
 
画用紙の、のこり上半分に、
セロリの葉が加わっていく。
 
 
葉や茎を、画用紙の空白にあわせて描いているので、
やや斜めの配置になった。
 
……でも、いい味を出してる気がする。
 
 
緑の色まで塗り終わったら、さながらジャガイモが、
ヤシの木ー……いいや、セロリの葉の下で、日光浴をしている絵のようにも思えてくる。
 
 
この出来に気をよくしたおれは、調子に乗って、……最後には、
ジャガイモの横に、ペットの犬のサングラスを描きこんだ。完成だ。
 
……もう、完全な自己満足ではあるが、
カンペキとしか言いようがない。
 
 
もしも、万一 『サングラスは何か?』と聞かれたら、
そのままこの絵の情景を伝えることにしよう。
 
「ジャガイモが、夏を堪能しているんです。」と。
 
――大丈夫、サングラスだって、きっと立派に静物の1つだ。
ちゃんと正しく役目は果たしている。
 
 
………
 
そして、この自由に描いたことが、
日の目を浴びることとなった。
 
 
新学期に入り、夏休みに描いたおれの作品が、
学校の絵で小さな入賞をした。
 
決して画力はうまいとは言えないが、発想が評価されたそうだ。
 
ジャガイモが、セロリの木の下で、サングラス小脇に日光浴をしている。
 
……ユーモアの通じる先生たちで、よかったと思う。
 
 
今日 体育館でもらった表彰状を手に、
家に帰った。
 
夕食の時間になって、テーブルについた。
台の上には、セロリと豚肉を炒めた料理も載っている。
 
 
「賞状をもらったなんて、良かったじゃないか。」
 
父親がそう言った。
 
「じゃあ、今日の夕食も、もりもり食べろよ。」
 
「うん……。セロリ、食べるのは嫌いなんだけどな……。」
 
「あっはっは。なに言ってんだ。
セロリのおかげで表彰状をもらえたもんじゃないか。
ちゃんと食べないと、恩返しできないぞ。」
 
……そうは言われても、独特な匂いがどうも苦手で、
料理としてはなじめなかった。
(絵を描く時は、マスクをしていたし自分と距離があるから大丈夫だった。)
 
 
結局、今夜のセロリと豚肉の料理は、
セロリの部分だけは残すことにした。
 
「もう、絵が入賞したことで食べれるかと思ったのに、
やっぱり残しちゃうのね。」
 
母親が小言を言ったけど、
絵と味とは、また別物だ。
 
「味のある絵」が描けただけで、今回は良しとしよう。
 
 
   (おわり)
 
 

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