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世界の終わりには多分何も食べられない

先日 隣屋のお料理 演劇というものを見てきた。
「66度33分」https://tonaliya.com/202304

席数が非常に少ないというので、LINEで待ち構えて予約
何とか無事に 席は確保できた
小さなアパートの一室
隣屋のアトリエでやるという

夜の街に立ったその5分の孤独と不安


集合場所は駅の改札
10分前には着いていたが 誰もいなくて非常に不安になる
あまり利用者が多くない小さな出口なので 人が通りかかるたびに 思わず そちらを見てしまう

間違ってしまったのでは? 何かすべきことがあったのでは?
これから起こることが分からず待つという行為は 非常に不安になる
この人も観客ではないかと思う人が到着するが その人は余裕がある風情で 私には声をかける勇気はなく 余計に孤独な気分にさせられた

集合時間5分ほど前に 小さな旗を持った人が到着
お迎えだった ホッと一安心
名前を告げ 先程の人と 合流したもうひとりと共に会場に案内される
色々なところから数名ずつ 三々五々集まってくるのだろうかと考えていたが 結局 3人で満席だった

本当にアパートの一室
玄関から中に入り 一番奥に座る
観客の正面には 玄関とキッチン

「こんばんは おじゃまします」の感覚が世界の終末への入口に


実は私は すでにこのアパートには何回か来たことがあった
観劇とは関係なく見知ったところだったのと 何も作り込んでいない舞台に
見ている感覚としては ただお邪魔しますと遊びに来た気分だった
しかし これが後々深く深く没入する 大きな原因となるのだった

”最後に食べたいご飯はなんですか?"

― 2020年、コロナ禍でInstagram Live配信した終末演劇「66度33分」をオンサイト上演。

https://tonaliya.com/202304  隣屋HPより

Instagram Live配信で行われた 30分短編の演劇の3本立て という形だった
3本は時系列でつながっている

世界が厚い雲に覆われ 朝が来なくなった
そんな中 毎日の料理を配信する「終末料理俱楽部」の3人のメンバー
それぞれの精神状態が ジワジワと浸み込んでくるような 脚本だった

「参加型の舞台」ではなく「いつの間にか勝手に参加してしまっている型の舞台」

インスタライブでの上演では 演者の彼らが発信しているその映像を見る
観客は「配信を見るひと」の視点で見ている
これは カメラに映らないところで何が行われているのかという想像をかきたてる
演劇というより映像作品に近いものだと感じる。

しかし 今回は彼らと同じ部屋に観客が存在している
それも びっしりと詰め込まれたりしていないので
先程言ったように「ちょっと遊びに来た友達」感覚で座ってしまっている

しかも 舞台が「太陽が昇らなくなった世界」のため 今回 夜に参加した私は まさに 真っ暗な 外の世界の中の明るいアパートにいる
リアル感が半端なかった
インスタレーションのような感覚もある

演者と話すわけでもない 目が合うことすらない 
それでも もう この時点ですでに舞台に参加してしまっていた
全てはこの場所のせいだ

https://tonaliya.com/202304

始まって10分ほどしただけで 苦しくなった
3人は楽しそうに配信準備をしているのに
もう座っていられない 逃げ出したい 怖い
ディストピアで生きることに向かない人間の私
世界の週末には何も食べられないと思う

完全にこの世界に入ってしまっていた

ただそこに存在する「場」が生み出す絶大な効果

これが劇場だったら
この場所だったとしても 観客が10人ぐらいきちっと詰め込まれていたら
ここまでの感覚はなかっただろう

劇場でないところで行うという仕掛けのある演劇は
もうそれだけで 没頭ポテンシャルがある

普段 私が本に没頭した時には 周りの状況や時間や音に全く干渉されず その世界にどっぷり入ってしまう
演劇をみても 映画を見ても その没入感に勝るものはなかった
今回の鑑賞体験は 「場」というものについて これから考える際の一つのヒントになるのではないかと感じている

リアルとフィクションの境目というか
フィクションをどこまでリアルに寄せるのか とか
リアルをリアルに見せることはフィクションになりえるのか とか
じゃあなにがリアルなんだ とか
もう よくわからないことになってしまったけれども
非常に興味深かったことだけは間違いない

この自分が感じた感覚が大切

ディストピアに没入しすぎて
終演後 夜の家路が非常に怖かったのは言うまでもない



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