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純喫茶にて

今日も面接。
もう慣れたもんだ。聞かれたことに笑顔でハキハキと答える。
経歴も、転職理由も、長所と短所も、将来の目標も、聞かれ慣れた。
1人で2人の子ども育てていると伝える際に、面接官の瞳の色が変わるのも、見慣れてしまった。


面接が終わったその足で、市内随一の純喫茶といわれる喫茶店を訪ねた。
ナポリタンとホットコーヒーを頼む。
ナポリタンは昔ながらのトマト味。ちょっと濃いめの味付けがなんとなく懐かしい。
大きめに切られた玉ねぎは甘い。
ぺろりと完食してしまう。

食後のコーヒーを持ってきてくれたマスターが、優しい笑顔をたずさえて聞いてきた。
「飛ばなかったですか?服に」
私が面接用の白いシャツを着ていたためだろう。
「大丈夫です。美味しかったです」と伝えると、「ごゆっくり。」とコーヒーを差し出してくれた。


仕事をしようとパソコンを持ち込んでいたのだけど、ついつい本を開いてしまった。
「風の歌を聴け」
2週間ほど前に読了したものの、2周目。

店内にかかっている、小さくはない音量なのに邪魔をしない音楽のせいだろうか。
それとも、この本を買った神保町にある喫茶店に雰囲気が似ているからだろうか。
どうしても、本を開かずにいられなかった。

村上春樹の世界に、とぽんと落ちる。


何章か読み進めたところでふと本から目を上げて外に目をやると、白いふわふわとしたものが舞い降りていた。
雪?
いやいや、気温は20度。雪なわけはない。
じゃあ…。

ポプラ。
ポプラの綿が飛んでいた。


コーヒーと音楽と「風の歌を聴け」。
そして窓の外に舞うポプラ。

ひどくゆっくりと流れる時間が、いろんなモヤモヤをうるかしていく。


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