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猪苗代を訪ねる

夕方から猪苗代方面に用事があり、仕事のない時期でもあったため、子どもたちを保育園に預けて午前中から猪苗代湖を目指した。

福島県の白地図の真ん中に空いた穴。
日本で4番目に大きな湖、猪苗代湖。

ただなんとなく、湖が見たくて。

特に予備知識を入れず、とりあえず白鳥渡来地である白鳥浜へ。
猪苗代湖に来るコハクチョウは、普段はロシア北極圏に生息するが、特に寒さの厳しい時期になると凍結などから食料を得られなくなるため、幼鳥を連れ約1ヶ月かけて猪苗代湖まで飛んでくるらしい。

冬の使者のイメージだが、白鳥からするとバカンスなのだろうか。

そんなことを考えながら49号線を走る。
トンネルを抜けると左手に湖がパッと広がった。
そこからしばらく湖沿いを走り、白鳥浜の駐車場に停める。

平日の車の少ない駐車場には…
見渡す限りの、カモ。
カモ、カモ、カモ。
1人なのに声を出して笑ってしまうくらい、カモ。

もはやカモの無法地帯。
車がカモに遠慮するほど。

白鳥の姿を探すと、遠くの浜に3羽だけいるのが見えた。
他の個体はロシアへ帰ってしまったのだろうか。
逆になぜ3羽だけ残っているのか甚だ疑問ではあったが、カモをかき分け白鳥を目指す。

近くで見るとやはり優美な姿。

湖の向こうに見える裏磐梯の山々が美しく、かつて暮らしていた七尾市大呑で毎日臨んでいた、富山湾の向こうの立山連峰を彷彿とさせた。
あの景色をこよなく愛していた。

少し感傷に浸りつつ、次の目的地を目指すために車に乗り込む。
ゆっくりゆっくり車を動かすとカモが集団でヨチヨチと避けていく。
その場で眠ってしまい動かない数羽のカモを軽いクラクションで起こし退けていただく。
こんな面白いことってあるのかよ。
やっぱり1人で笑ってしまった。

次の目的地は「はじまりの美術館」。
障がいのある方の芸術推進のために設立された小さな美術館。
今回は5名のアーティストの展示がされていた。

それぞれ障がいを抱え、生きにくさのあるこの世界に産み落とされた作品は、緻密でエネルギッシュで、繊細でパワフル。
その自由な表現に圧倒された。

美術館をあとにし、湖畔のTARO cafeでコーヒーを飲む。
こんな時間は久しぶりだ。

そこから本来の目的であった湖南町は猪苗代湖を半周まわった先。
晴天の湖岸ドライブは本当に美しかったけど、運転中なので写真は撮れなかった。残念。

湖南にて中学生時代の恩師と7年ぶりに再会した。
卒業から12年、まるで変わっていない恩師の姿に、中学生にトリップしたような錯覚を覚える。

いつの間にか大人になっていた。

1人で過ごすことが好きになったのはいつからだっただろう。
初めての一人旅は、埼玉から南相馬を目指した時だっただろうか。
まだ全線開通していなかった常磐線に揺られて縦断した浜通り。

大学4年にあがるとき、人生に迷い特急あずさに飛び乗った。
安曇野というまちに一度行きたくて。
あの時に見たワサビ畑の美しさは忘れられない。

飛行機に乗って徳島に渡り、鳴門海峡をみたのはその年の夏だっただろうか。
そのまま電車で香川を目指し、瀬戸内海の島々を巡った。
女木島では自転車を借りて島のてっぺんを目指し、海の見えるベンチでなぜか昼寝した。

七尾に行く前に夜行バスで降り立った金沢。
早朝の兼六園と近江町市場。
そのままスーパー銭湯で仮眠したっけ。

それから母になり、1人の時間はほとんど失われた。
子育てし、仕事をし、闇雲に頑張ってきた5年間。

1人の時間は贅沢だ。
そう思って敬遠すらした。

だけど今、故郷に戻り、まとまった時間を手に入れた。
なんだか罪悪感を持っていたのだけど、よく考えたらこんな機会はめったにない。

1人を楽しめるなんて、なんて贅沢。
贅沢な人生の休暇を神様からもらったと考えよう。

猪苗代を訪れ、そう思った。
母だって、1人を楽しんでいいんだ。
だって1人でどこにだって行ける大人になったんだから、わたしは。

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