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満月の日のお客さん

満月の日には認知症の方は元気になる。
元気になるという表現はちょっと何かが違う。

何かが『覚醒』している。

何がと問われるとなんと説明していいか分からない。
でも事実だ。
療養や介護の現場の方は理解してくれる部分があるのではないだろうか。


普段は寝たきりでほとんど反応がない人が喋る。

おっとりとした人が興奮して暴言を吐く。

何もないところを指さして怯える。


私にとって見れば『あるある』だ。
普段は気にしていないが、こういった状況が起きた時にふと調べると満月だったりするのだ。

満月の時には、気分が高揚しやすいとか犯罪が起きやすいとかいうけれど、私はそれだけじゃないような気がする。

ある日、認知症の女性が落ち着かずソワソワしていたので声をかけたら
「お客さんに茶は出したか?」
と言われた。
私は出していないから、今から出しますと答えた。

しばらくすると他の認知症の男性から
「お客さんがもう来ているだろう?」
と言われたので、まだ来ていないようですが…と答えた。

今日はみんな何か不穏気味だなぁなんて思っていると
いつも『バカタレ』しか発さない患者さんから
「早く!お客さんが来ているだろう!」と怒られた。

さすがに気になって同僚に話すと他のフロアでも同じことを言われていた。
その後も謎のお客さんは度々満月や新月に現れているようだったが私には何も分からなかった。
超絶怖がりの私としては分かりたくもないというのが当時の本音だった。

あれから職場は変わったが時折似たような現象に遭遇する。
やはりお客さんは変わらずあちこちに来ているようだ。
だが、お客さんの話を聞く度に不思議と怖がる気持ちはなくなっていった。
まぁ、そういう世界線もあるよね、くらいに捉えるようになった。

満月の時には何かのドアが開いて、そこから何かがやってくる。
そんなことが、見えていないだけで実は起きているのかもしれない。
月にいるのはウサギじゃなくて霊だったりしてね。
なんて満月を見上げながら考えた夜だった。

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