先生のことが好き……なのか?
高校は、ほぼ女子校だし(女子クラス・そもそも生徒の7割が女子生徒)
出会いはないし……いや、特に出会いを求めているわけではない。
好きな人がいるわけでもない。
でも、恋愛をしたいというわけでもない。
だから、心穏やかに過ごしていたのだ。
ひとつだけ、嫌なことはあった。
それは体育の授業である。
体育が苦手というものがあるが……。
体育の先生が近澤先生だからだ。
前回の「地獄の合宿」で近澤先生の怖さはわかった。
体育の授業は、近澤先生に怒られないようにした。
周囲の子たちもそうしていた。
もう先生を鬼か悪魔としか思っていないのだ(笑)
しかも、隣のクラスの担当教師である近澤先生。
遭遇率も高め。
なんか嫌だなあ。ストレスの源が歩いてくるなあと思っていた(ひどい)
ある日、近澤先生が結婚して子どももいることを知る。
私たちは、「近澤先生と結婚するだなんて、どんな心の広い女性なんだ」と噂していた。
近澤先生は、名簿の隅に夫婦のツーショットプリクラを貼っていると、と隣のクラスの子からタレコミがあった。
どうやら、近澤先生のご夫人は、すごく美人だそうで……。
「美女と野獣かあ」などと言われていた。
とにもかくにも、非常に評判の悪い近澤先生。
逆に言えば、本当にどうでもいい先生なら、噂すらされない。
話しのネタにもされない。
そんなことに、私は気づいていなかったのだ。
春も終わりの頃。
担任の先生が風邪で休んだ日があった。
その先生の担当科目は自習。
自習の監視役に来たのは……。
近澤先生だった。
先生が教室に入ってきた瞬間。
静かになる教室。
クラスメイトのほとんどは、先生が怖いからだ。
しかし、私は違う理由で黙り込んだ。
先生のスーツ姿が、めっちゃカッコ良かった!
いや、だってさ!
いつもジャージなのよ!
それがさあ、いきなりスーツって反則じゃないですか……。
スーツと白衣に弱い16歳。
しかも、近澤先生、けっこうスラッとしてるんだよ~
余計にスーツが似合うんだよ~
誰への何の言いわけなんだよ。
そして顔もね、かっこいいって思えてきちゃって。
スーツマジックやべぇな!
まあ、そういうわけで、「あれ? かっこいいな」って思った。
しかし、そう思っていたのはわたしと、もうひとりのクラスメイトだけ。
なぜなら、わたしが周囲に話しても、「は?」という顔をされるだけで……。
「だよねー」といい合えたのは、ひとりだけだった。
近くで話を聞いていたクラスメイトたちからは、「あんたら目がおかしいよ」と呆れられていた。
30人越えの女子たちの中で、「かっこいい」という女子がわたしともうひとりだけとは……。
わたしの感覚、おかしいのか?
いやいや、わたしは普通だよ。
それに、カッコいいと思っただけ。
恋をしたとかそういうわけじゃない。
だってなんか癪じゃない。
今まで怖い、うざいと思っていた先生のことを、好きになるなんて。
それに結婚してお子さんいるんでしょ?
いやー、ありえないわー。
そう思っていたある日。
放課後に、一人で廊下を歩いていた。
イチゴミルクを欲して。
帰れよ、って話なんだけど。
委員会の仕事かなにかで帰れなくて。
おまけにクラスメイトに仕事を一方的に押し付けられた形になっていて、なんだかモヤモヤっとしていた。
そうだ、こういう時は甘い飲み物だ。
そう思って廊下の隅にあるパックの自動販売機に向かって歩いている時。
誰かと肩がぶつかった。
かるーくぶつかった。
痛くはない。
相手は、近澤先生だった。
近澤先生は、ぶつかった瞬間。
こういった。
「あっ、ごめん!」
その瞬間。
わたしは信じられない光景を見た。
近澤先生、謝れるタイプなの?(ひどい)
いや、ぶっちゃけ、わたしがふらふらしてるからぶつかっちゃったのに。
先生のほうから真っ先に謝ってくれるとは思わなかった。
しかも、声がめっちゃ優しかった。
モヤモヤした心が一気に溶けた。
その瞬間、思った。
わたし、近澤先生のこと、好き……。
え?! 本当に?
いや、なんかよくわからない。
でも、なんか好きだと思ってしまった。
私の負けだ。
なんの勝負かわからないけど……。
いやいや、先生だし、既婚者でしょ。
ありえないわー。
そんな不毛な恋をしてどうする。
あれこれと考えて出した結論。
よくわからない。
このあと、高校3年間。
近澤先生への片思いで過ぎていくのであった。
この時の私はまだ知る由もない。
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