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「涙に滲んだ恋歌」#才の祭小説

5月10日(木)
他の人の傘を持ってきてしまった。

朝、会社に遅刻すると思って慌てた!
目についた兄貴の折りたたみの黒い傘を持ったのがよくなかった。
駅へ行く途中、男性とぶつかって傘を落とした時に、確認もせずに拾ってしまった。これはあの彼の傘。明日、待ち伏せをして返そう。
5月23日(水)
傘を返したことがきっかけで、話すようになった。
どうしよう。何だか彼に会えた日は、1日がハッピー。
これって…もしかして…?
6月6日(水)
苦しい。彼に会いたい。
休みの日は何をしているのだろう。
誰かと過ごしているのだろうか。
6月23日(土)
蛍狩をした。
ただただ切なくて。
蛍ほどの小さな恋心
夜の明かりに
泣いている

日記はここから空白のページが続いていた。
母が亡くなって3年。
愛用していた文机の埃を払いながら、何気なく引き出しを開けてみた。
そこには、1冊の本があった。
「ロベール・デスノス」という詩人の詩集。
そしてもう一冊、表紙には昭和48年と書いてある普通の大学ノート。
開くとそこには、懐かしい母の字があった。
母は恋をしていたのだ。それも片想い。
何故この日記をずっと保管していたのだろうか。捨てることもせずに…。

9月22日(土)
連休を利用して秋桜で有名な丘へ一人で来た。
家族、友人同士、おひとり様、そしてカップル。
忘れたくて来たのに。心にはいつもあなたがいる。風が吹いても、きっと嵐が来ても、あなたへの想いはびくともしない。
渡せない秋桜の栞をあなたにも…。

次のページにはその秋桜の栞が挟んであった。
そしてそこに書かれていた詩。

秋桜になびく想い
瞳を閉じると
会える恋
10月7日(日)
永遠にこうしていたい。
片想いは切ないけれど、告白する勇気はない。
毎朝、顔を合わせ「おはよう」というだけの関係だけど。
あなたを思っている時間は幸せだから。
10月24日(水)
1日1日寒さが増す。
あなた、寒くはないですか?
気温が下がるたびにあなたへの想いは増してくる。
人肌が恋しくなる季節。
私は無事に秋を過ごせるのだろうか。
一人ぽっちで…
11月11日(日)
帰りに待ち伏せをした。
そんな自分が嫌い。

そしてまた、空白のページ。
この空白のページには、私には見えない母の思いが書かれているのかもしれない。
苦しめば苦しむほど、この空白のページは多くなる。
そんな気がしてならない。
この片想いは、このまま終わるのだろうか?
永遠の片想い。
私なら耐えられない。
この日記の相手は、一体誰なのだろうか?父は知っているのだろうか?
少しソワソワして来た。

12月24日(月)
クリスマスイブ。
賑やかな灯りが私には眩しすぎる。
いつか貴方と歩きたい。 
寒いねと肩寄せながら…。
そして今夜も眠れない。
終わりのない片想い
雪の下に眠ったまま
この恋は。。。

この。。。は涙なのだろうか?
文字が滲んではっきりと読み取れない。
何て書いてあったのだろうか。

12月25日(火)
あー神様!
私もあなたのことが大好きです。キイチさん。

「おーい!ミヤコ帰ったぞー!」

私は号泣してしまった。
キイチは父の名前だった。

蛍ほどの小さな恋心
夜の明かりに
泣いている

秋桜になびく想い
瞳を閉じると
会える恋

終わりのない片想い
雪の下に眠ったまま
この恋は。。。


《おしまい》

✴︎✴︎✴︎
🌲こちらの企画に参加してまーす!!
皆さんもよかったら、どうぞ✌️
過去作品でもいいんだよ!

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