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「アナスタシアの羽根」–物語🎄− #才の祭小説参加作品

そこは静かな天空の森。
大きな平和に包まれ、月が欠伸をするほどゆったりと流れている時空です。
そこでアナスタシアは産まれ育ちました。

ある時期になると、地球が賑やかな灯りに包まれることを子供の頃から知っていました。
今年もその時が来たようです。

「お父様、地球では今何が起きているのでしょうか?とても美しい灯りに包まれていますね。」
「アナスタシア。地球にはクリスマスというのがあるのじゃ。聞いた話しでは、もみの木に装飾をし、家族で特別な食事、クリスマスディナーを食べ、プレゼントをあげたり貰ったりとするそうじゃ。まぁー国によっては違うようじゃが。」
「…ふーん。地球に行って見てみたいわお父様!」
「アナスタシア。それは…出来なくもなが…」そう言いながら長く白い髭を撫で、意を決した様に話し出しました。
「約束を守れるのなら、いいだろう。」
アナスタシアは嬉しさの余り大きくお父様の周りを飛び回り、頬に何度もキスをしました。
「もちろんです!その…約束って何?」
「うむ。お前が地球に行くのは地球歴でいう12月24日じゃ。
しかし25日には帰って来なくてはいけない。
もしも26日になってしまったら…お前はわしと二度と会えなくなるんじゃ。」

えっっ!と驚いたような顔をしたアナスタシアは直ぐに気を取り直して目を瞬かせなから言いました。
「大丈夫です!お父様。」
大きくうなづいた後、父コイオスは大きな黒い羽根をアナスタシアにつけてあげると、抱きしめながら最後の忠告をしました。
「よいかアナスタシア。この羽根は地球に降り立ったら自然に消える。そしてお前が帰る時が来たら、またこの羽根は生えてくる。
もしも、もしもこの羽根が出ても、お前が戻ってくるタイミングを間違うと、地球にこの羽根を付けたまま残ることになるのじゃ。」
「お父様、大袈裟ね!私はちょっと見たいだけです。ですから直ぐに戻ってきます!」そう言って優しく父を抱きしめました。

✴︎✴︎✴︎

アナスタシアは、日本という国に降り立ちました。
「わーこんなに沢山の灯りが!」見惚れて歩いていると、前から来た若者とぶつかってしまい、思わず尻餅をついてしまいました。
「あっすいません。大丈夫ですか?」と手を差し出したのは、地球でいう17歳くらいの男子でした。
その端正な顔立ちに、一目見てアナスタシアは恋に落ちました。
「いえ、大丈夫です。私の方こそこの素敵な灯りに見惚れて歩いていたので…」
「イルミネーション?のことですね?」
「あっ、はい。産まれて初めて見ました!
あの…私はアナスタシア。あなたは?」
「平太。へ・い・たです。宜しくアナ〜」
「アナスタシア!」
「うん!アナスタシア!良かったら一緒に見ませんか?」
そう言って二人は歩き出しました。

アナスタシアは、綺麗な色とりどりの明かりを見ながら、このまま彼とずっとお話しが出来たらと心から願っていましたが、父コイオスの言葉を思い出しすと悲しくなり、思わず泣いてしまいました。
「あっ、僕何か気に触ること言ったかな?」とおどおどする平太に、「なんでもないの。ただ、もっとこうしていたくて」と言葉が返ってきた時に、平太はドキドキしてる自分に気づいて赤面しました。
「じゃー…良かったら、一度行きたかったパフェ屋さんに付き合ってもらっていい?」そう言って二人は、足早に信号を渡って、パフェ屋さんに向かいました。
途中、初めて見るクリスマスの街の風景にアナスタシアはまるで子供の様にはしゃいでいました。
パフェ屋さんは、女性客で大変賑わっていました。
メニューを前にアナスタシアは言いました。
「ね、目を瞑って適当に指さしたのを食べていいかしら!?」
「勿論だよ!じゃー僕もそうしよう!」
そうして二人は目を瞑りそれぞれ指さしたパフェを注文し食べ始めました。
「ね、これ甘いわ。そして冷た〜い!」とこの店で一番美味しそうにパフェを食べてるアナスタシアに平太は、愛しさを感じました。
「ねぇ。明日も付き合って欲しい場所があるんだ。」心臓はバクバクでしたが、友達を誘うように声を掛けました。
「ええ、勿論よ。あっ!…ううん、何でもないの。」
最後の言葉が気なりましたが、また同じ場所で18時に会う約束をして二人は別れました。

✴︎✴︎✴︎

12月25日18時。
二人は昨日と同じ場所で会い、ケンタッキーを食べに行き、その後平太が一度子供の頃行ったことのある教会へ行きました。

「ここは…?」
「教会だよ。これからゴスペルが始まるんだ。とっても迫力がある。気にいると思うんだけど。」
教会ではキャンドルサービスも行われ、アナスタシアはすっかり魅了されている感じでした。
ゴスペルが始まると同時に参加者は全員立ち上がり、一緒に体をスウィングしながら歌い出しました。
平太はアナスタシアが楽しく歌っている横顔を見て、今夜告白をしようと決意しました。

教会を出た二人は、クリスマスを惜しむようにイルミネーションを愉しむカップルに紛れながら、「幸せの鐘」がある公園へと歩いて行きました。

ーー時間は刻々と過ぎていきました。
「…今、何時かしら?」
「23時くらいかな。あっ、もう帰らないと叱られるよね?
僕は家族には遅くなるって言ってきているから大丈夫なんだけど…。」
そう言うと、うつむき出したアナスタシアの事が心配になりました。
「ごめんね。僕…まだ一緒にいたくて…」
そう言って手を握りしめました。
「…どうしてあなたと出会ってしまったのかしら…」そう言うと平太の胸で泣き出しました。
何が起きているのか分からない平太は、アナスタシアを優しく抱きながらそっとキスをしました。
その時です。平太はアナスタシアの背中に違和感を覚えました。
「背中に何かあるの?」
ハッとして背中に手をやると、羽根が生えて来ているのが分かりました。

もう泣いている余裕さえないと悟ったアナスタシアは、自分が何処から何の為に来て、そしてもうじき永遠のサヨナラをしなくてはいけないことを説明しました。その間にも羽根はどんどん大きくなり、飛び立つ準備が整い始めました。

「じゃ、僕はどうしたらいいんだ。君のことがこんなに好きなのに。どうしたらいいの?」そう言いながら平太は泣き出しました。
アナスタシアは、羽根を一枚平太に渡しながら、「あなたと過ごしたこの時間は忘れない。本当にありがとう。」そう言うと空へと飛び立って行きました。
「嫌だ!待って!行かないでー!」と両手を夜空へ伸ばしましたが、あっという間に見えなくなってしまいました。

時は26時。

天空の森では、父コイオスが悲しみに暮れていました。
溢れ過ぎた涙は、流れ星となりました。

「お父様、愛しています。どうかお許し下さい。」

その夜、多くの人々は、稀に見る流れ星の数に歓喜し、夜空を何時間も彷徨うように飛び回る、大きな翼を持った鳥を目撃したということでした。

《おしまい》

✴︎✴︎✴︎

🍀こちらの企画に参加してまーす٩( 'ω' )و
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過去作品でもOK!

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11月14(日)~23日(火)

🍀そして、扉絵は、cofumiが以前から尊敬し交流させて頂いている、鶫ちゃんの絵を使わせて頂きましたぁ✌️
この絵をこの企画で使えて嬉しい😊
鶫ちゃんありがとう👍

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