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ソルティ・ドッグ

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塩日記2020
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#読書

たゆたえども沈まず

寝起きするだけでシーツに皺が寄るように、生きているだけで皺寄せがくる。誰かとしゃべるために顔の肉を持ち上げ、垢が出るから風呂に入り、伸びるから爪を切る。最低限を成し遂げるために力を振り絞っても足りたことはなかった。いつも、最低限に達する前に意思と肉体が切れる。  - 宇佐見りん「推し、燃ゆ」(文藝2020秋) 春から、負けず嫌いと責任感と、少しの憐憫で息をしていた。折れると思う瞬間は何度もあって、7月下旬からは「もうむり、できない」をひとりで繰り返した。世間が夏季休暇に入る

王子様のキスではなく、私はアレクサでめざめたい

北村紗衣『お砂糖とスパイスと爆発的な何か』を読んでいるところなのだけど、「プリンセスは男のロマン!」の話がおもしろくて笑ってしまった。 映画に淡々と斬り込んでいく北村さんのフェミニズム批評、フェミなんて興味ないよという人でも「こんな解釈のしかたがあるのか」と目から鱗だったり勉強になったりするし、単純に読み物として十分楽しいと思うので、気になる人はぜひ購入してほしい。私もまだ読み終わってないけど。 北村紗衣さん「お砂糖とスパイスと爆発的な何か」まだ読み途中だけど、プリンセスは

時間をかけて表現を愛する

「またそれ読んでんの?」 「いつまでその音楽聴いてるの」  そんなふうに私はよく呆れられる。本当の本当にのめり込むと、言葉や物語に運命を感じてしまうと、いつだって、永遠にそばにいられるような気がする。  好きになるととことん一途で、ほとんどよそ見をしなくなるのは昔からだ。毎日同じ作家の本ばかりを読んでいる。毎日同じアーティストの曲ばかりを聴いている。飽きないのかと訊かれるけど、表現の骨の髄まで「私のもの」にしないと気が済まないから、飽きるなんてことはありえない。  やが