こども基本法体制のもとでの子どもの貧困対策 末冨先生の基調講演

勉強になったポイントを書いていく〜

● 日本の子どもの貧困はウェルビーイング(幸せ)基準でも捕捉されている

・子どもの幸福度の結果:総合順位は20位
 精神的幸福度:37位
 身体的健康:1位
 スキル:27位

UNICEF-RC16_JPN_日本の結果(概要)レポート(https://www.unicef.or.jp/library/pdf/labo_rc16j.pdf)を見ていたら、朝食と幸福度の関係性についてのデータがあった。

朝食をとること、自転車に乗ること、十分な睡眠など、あまりメディアに 注目されない多くの一般的な行動が精神的幸福度により密接に関わっているのである(図 14 参照)。

UNICEF-RC16_JPN_日本の結果(概要)

● 逆境体験

・中学生の逆境体験は、所得中央以上でも「1〜2個」や「3個以上」当てはまる児童生徒の存在がある。
・低所得になるほど逆境体験を経験している割合が高くなる。
・逆境体験を経験している場合には、現在の生活満足度が低いという関連性もある。

● 低所得層(等価世帯収入が中央値の2分の1未満)は支援制度が利用できていない

・理由は、制度の対象外だと思っている人が多いから。

● 国として初めての子どもの貧困実態調査が行われた

令和3年 子どもの貧困実態調査 (https://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/chousa/r03/pdf-index.html )

<どの点が"初めて"なの?>

 報告書は、「政策実行を求める数字を集める」という点で、今までのものとは一線を画している。その特徴は、貧困の実態把握、制度補足率の把握、オープン・アクセスの3点が挙げられる。また、内閣府は、報告書を自治体の子どもの貧困対策の「通信簿」の雛形となることを期待している。

https://wedge.ismedia.jp/articles/-/25314

● 日本は、生活に満足していると答えた子どもの割合が最も低い国の一つ

https://www.unicef.or.jp/library/pdf/labo_rc16j.pdf

・生活全般への満足度を0から10 までの数字で表す設問で、6以上と答えた子どもは、日本では 62% のみだった

● 母子世帯の貧困率

https://www.gender.go.jp/kaigi/kento/Marriage-Family/5th/pdf/3.pdf

<注目ポイント>
就労による母子世帯の生活保障には限界がある

● こども基本法の概要

こども基本法の概要
https://www.cas.go.jp/jp/houan/220622/78gaiyou.pdf 

・子どもの権利や、子どもの権利の尊重や保障が具体的に明記されている
 =子どもの権利の国内法

<注目ポイント>
基本理念②
・等しく保障とは、子どもを取り巻く外的要因(親の所得など)に関わらず、等しく保障するということであり、ウェルビーイング基準で保障するということ。

基本理念③
子どもの意見の表明は子どもの意見の尊重とセットであると明記した
 →子どもの意見を聞いたけど聞かなかったことにしないため
・「参画」という「参加」より強い言葉を使うことによって、子どもがより社会活動に入りやすいようにした

● 政策の優先度は子どもへの直接効果が高い事項から!

<子どもファースト>
◉子どもの命を守る
 虐待死をゼロに / 未成年自殺率の改善 / 日本の子どもの絶対的貧困(衣食住の欠乏)の改善など
◉子どもが安心して幸せに育つ社会
 子どものウェルビーイング指標(貧困・虐待・いじめ・自殺・不登校など指標のほか、自尊感情、意見表明・参画意識などの子どもの権利指標・主観的幸福度など)

<大人ファースト>
・子どもを産み育てやすい社会
 婚姻数・出生数・出生率のほかに、20〜40代国民・住民の婚姻・出産・子育てへの意識指標改善
・少子化対策
 婚姻件数 / 出生数 / 出生率改善

*子育て政策と少子化対策をひとまとめにしない!

● 日本の子どもたちに何を「成果」として保障すればいいか?

・最も貧しい子どもたちの世帯の所得を改善する
・不利な状況に置かれた子どもたちの学習到達度を向上させる
・すべての子どもたちに対して健康的な生活習慣を促進、支援する
・主観的な幸福度を重視する
・公平性を子どもの幸福度の課題の中心に位置づける

<注目ポイント>
公平性=すべての子どもたちに手続き的に等しくするのではない。
重点的に見たほうがいい子どもには100、1000と与える。(ロールズの格差原理的に?)

レポート(https://www.unicef.or.jp/library/pdf/labo_rc13j.pdf)も参照。

このレポートの中にロールズの正義論を引用しているとの記述があった!!!

レポートカード 9 の結果は、「米国の政治哲学者ジョン・ロールズ(John Rawls)が定義するところの『正義の社会』i の基準により各国を評価した 初の試み」として提示された。公表されて以来多くの議論の的となってき たものの、「正義」とは公正であることとするロールズの画期的な分析は、 底辺の子どもたちの格差に関する時系列の分析に用いることのできる「レ ンズ」を我々に与えたのである。

本レポートカードでは、ロールズが特定したテーマを、子どもたちの立場に専ら焦点を合わせて追究していく。子どもたちの生活における格差につ いて、また格差がどの程度子どもたちの成果を決定付けているのかについ て、詳細に分析を行う。以上の論点について、子どもの幸福度の格差は、 子どもたちの力の及ばない社会経済的不平等にどの程度関連しているのか というテーマとともに、検討を加える。

私がやろうとしていることはもうすでに誰かやっていますよねえ…。

ロールズの正義論のどこを参考にしたのかも別のレポート(https://www.unicef-irc.org/publications/pdf/rc9_eng.pdf)に書いてあった

ロールズには、彼の考え方に反論する本を書いた何百人もの人たちの中に、批判者がいます。リバタリアンは、財産権や自己所有権などの基本的人権には、ロールズ流の「公正な社会」の概念が入り込む余地がないと反論しています。ロナルド・ドゥオーキンは、「原初状態」から作成されたルールに関する仮説的な合意は現実の合意ではないため、必要な受け入れや権威を得ることができないと主張した。アマルティア・センも同様の弱点を指摘し、「原初状態」からでさえ全会一致を達成することは不可能であり、全会一致の欠如はロールズ的テーゼを崩壊させることになると付け加えています。これらの批判を統合して、マイケル・サンデルは、独自の伝統と歴史を持つ共同体を支配するルールに関する決定は、根無し草的で歴史的に抽象的な立場からの推論では行えない、と異議を唱えている。
しかし、社会のルールは、その支配的なメンバーだけでなく、すべての人の利益を反映すべきであるという考え方は、理論的には広く受け入れられています。手段ではなく、目的が一致することが重要であるとするならば、公正な社会の実現に向けた進捗を測る一つの方法として、最も不利な立場にある人々が被る不利の度合いを測ることができるだろう。このレポートカードは、それを実現しようとするものです。
特に、アマルティア・センが示唆するように、不利な状況を「自分の可能性を実現し、自分の能力を開発し発揮することが最もできない人々」と定義するならば、不利な状況の程度を「全体的に」測定するには、より包括的なデータが必要であることは明らかである。それでも、このページで紹介するデータは、そのプロセスへの貢献となるものである。物質的財、教育レベル、健康という3つの異なる幸福の次元において、最も恵まれない人々が中央値からどれだけ遅れているかを示しています。そして、国によってパターンが大きく異なるという事実は、「公正な社会」に向けて他国よりも前進している国があることを示しています。

p.24 DeepLさんに訳してもらいました

Rawls has his critics among the hundreds who have written books in response to his ideas. Libertarians have objected that basic human rights such as property rights and the right to self-ownership leave no room for a Rawlsian concept of the ‘just society’. Ronald Dworkin has argued that hypothetical agreements about rules drawn up from ‘the original position’ are not real agreements and therefore could not find the necessary acceptance and authority. Amartya Sen finds the same weakness, adding that unanimity would be unlikely to be achieved even from ‘the original position’ and that lack of unanimity would bring the Rawlsian thesis crashing down. Uniting some of these criticisms, Michael Sandel has objected that decisions about the rules governing communities that have their own traditions and histories cannot be made by reasoning from a rootless and historically abstract position.
But the idea that the rules of society should reflect
the interests of all, and not just its dominant members, is widely accepted in theory, even if the methods by which it might be achieved remain controversial.
If we assume that the end, if not the means, commands a measure of agreement, then one way of measuring progress towards the aim of a just society would be to measure the degree of disadvantage suffered by its most disadvantaged members. That is what this Report Card attempts to do.
Clearly, more comprehensive data would be required to measure degrees of disadvantage ‘in the round’, especially if, as Amartya Sen suggests, disadvantage should be defined as “those who are least able to realise their potential and develop and exercise their capabilities.”
Nonetheless, the data presented in these pages represent a contribution to that process. In three different dimensions of well-being – material goods, educational level, and health – they show how far behind the median level the least advantaged are being allowed to fall. And the fact that different countries show very different patterns indicates that some countries are making more progress than others towards ‘the just society’.

● 日本は、格差是正マイナス / 水準向上プラスの学力政策

・他の先進国と「かけはなれた位置」
(志水, 鈴木 2012『学力政策の比較社会学【国際編】―PISAは各国に何をもたらしたか―』明石書店)


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