見出し画像

【読書感想文】臓物百合SFのすすめ

映画界隈では、「スプラッター映画」というジャンルが地位を確立しています。「恋愛映画」とか「ヒーロー映画」を中心都市とすると、「スプラッター映画」は片田舎のモーテルみたいなものです。大舞台にはけして現れないが、一定の利用層がいます。
殺害シーンを生々しく描写するのが「スプラッター映画」の特徴でして、多くはホラー要素を含みます。殺人鬼が金髪美女の内蔵ぶっこぬいたり、エイリアンが溶解液をぶちまけて人間がドロドロになったりする様子を念入りに……念ッ入りにお届けするのがスプラッター映画だと思って頂ければ。

実は私、これが苦手でしてホラーだけでも怖いのにグロいのはもっと怖い。
怖いのを想像して周囲の音にビクビクしてしまうし、痛いのも想像して「イデデデデ」ってなってしまう。その手のシーンは横を向いて目の端で映画を鑑賞するというスタイルで受け流すようにしています。

スプラッタシーンを見る鼻スフレ(寄生獣)

一方、小説界隈にはあまり「スプラッター小説」というジャンルは確立されてないように思います。スプラッター小説と呼ばれる本はたくさんありますが、いちジャンルとして地位を得ているかというと微妙。
なので、たまたま手に取った本が「このスプラッターがすごい!」とか「グログロ文庫大賞」とか煽り文句が付いていることは少ないです。官能小説だと思って読み始めたら、不倫相手への綿密な殺人・解体描写があって「おいこれグロイやんけ!!」となるような事態が、ままあります。


前置きが長くなりましたが、百合SFだと思って読んだら臓物百合SFだった本をご紹介します。

【あらすじ】
卒業式会場に向かっていた中3の羊歯子は――暗い部屋で目覚めた。隣に続くドアには貼り紙が。“下記の通り卒業試験を実施する。ドアの開けられた部屋の数をnとし死んだ卒業生の人数をmとする時、n-m=1とせよ”。ドアを開けると同じく寝ていた中3女子は無限に目覚め、中3女子は無限に増えてゆく……。

映画「CUBE」(ちょい古めの名作ホラー映画。グロイ)みてぇな四角い部屋に閉じ込められた女子高生たちが、それぞれ上記の課題にどうアプローチしていくかみたいのを見守ってキャッキャッできる本です。
基本的にだれか死なないと進行しないので、死にます。
殺したり、自殺したり、グループでバトッたり、狩猟開拓生活したり、現代知識搭載型ローマ帝国(奴隷制もあるよ!)を作ったり、一人から億単位で色んなパターンで死にます。
食料が限られているので、女子高生同士の人食いも横行します。
強めの殺害や解体描写があるわけではないのですが、死生観とか倫理観がぐっしゃぐしゃにされるのでお気持ちがグロくされます。死にすぎてキモチワルイ。そんな感じ。でも楽しい。
そういう風に楽しんでいるヤツがいるんじゃない?って登場人物に言われて、グサッときて凹んだりする。けど面白いから読むの止めらんないね。
百合に関してはけっこう薄味です。シチュエーションホラー好きな人には大好物だと思います。私も好き。
同作家の「魔女の子供はやってこない」。こちらもオススメです。

「少女庭国」は結構整然として読みやすい文章ですが、こちらは「内から溢れ出す言葉を濾過せずに出力しました」みたいな勢いがあります。汚物の中から時々真珠が見つかるような、そんな素敵な文書体験ができます。こちらもグロ百合注意です、はい。

続きまして「最後にして最初のアイドル」。

短編集になってまして、「アイドル」「ソシャゲ」「声優」と3つのオタクジャンルを主題とした作品に、それぞれ百合とSFを掛け算しましたみたいな内容です。
……いやなんか違うな。間違ってはないんですが、この本の特殊性を表現するにはあまりに平和すぎます。例えを使いますね。

私たちは、電車で東京から埼玉へいくことになりました。
各停にのっていたはずが、いつの間にか地下鉄だったり特急だったり新幹線だったりSLだったりモノレールだったりに乗ってます。窓から見えるのはゆりかもめだったり富士山だったり流氷の海だったりします。
途中でトロッコ問題に挑戦中の集団がいたので、複線ドリフトで皆殺しのグッチャグチャ合挽きハンバーグにしてやったぜ!ナイス!
でもなんかおかしいな?ここ埼玉っていうか関東ですらなくない?と思って乗ってると、やがて終着駅につきます。そこで私たちは駅員さんにここはどこですか?って聞きます。
「ここは埼玉です」って言われて、そんな馬鹿なと思って見回すとたしかに知ってる景色で「あっここ埼玉だわ」ってなる。

みたいな小説が3本入ってます。
……分かんないですかね? ポイントは一度も脱線してないってトコです。
グロ描写は過激です。内蔵に消化管刺してすすったり、脳みそ引っこ抜くときに眼球が頭蓋骨の中に引っ込んで口から出てきたりします。
表題作にもなっている「最後にして最初のアイドル」ですが、こちらはなんと作者がかつてラブライブのSF合同同人誌に寄稿したものを、リライトしたものだそうです。
さすがの怪文書というか、どう見ても怪文書というか、まるっきり怪文書です。当時読まされた方々の心境やいかに。
一方、同人書きとして負けられねぇなという闘志を燃やしたりもしました。


以上です。
尖り気味の作品群ですので、風呂上がりでポカポカしてる時に足つぼマッサージに乗る感じで読みたいかもしれません。











この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?