見出し画像

17年の”そっかぁ” (小説/はじめてのインターネット)

 お父さんが浮気してて、とうとう離婚するんだって。

 中学生の頃、初めて買って貰ったパソコンで、私は某チャットサービスにハマっていた。そのサービスで知り合った友達と、夜ごとカタカタとおしゃべりを繰り返した。

 いつもと同じように先生の愚痴や好きなマンガについて話をしていた時、私はぽんとそんな言葉を投げ込んだ。軽い調子で言った、つもりだった。もやもやした気持ちを吐き出したかったけれど、深刻な空気にもしたくなかった。なのにパソコンの画面上に浮かび上がった文字は、やけに深刻に見えた。悩んでなんかない、親同士のことだし、私には関係のないこと。そう思っていたはずだけれど。

 相手からのレスが止まってしまった。相手がチャット上に、何かを打ち込んでいるというマークが付いたり消えたりした。何て言っていいか、迷っている。躊躇っている。それがインターネット越しでも伝わってきて、私はとても申し訳ない気持ちになった。けれど同時に、彼女がそれ程心を砕いて私への返信を考えているのだということに、胸が柔らかく解ける。仮にどんな言葉が来たとしても、私はその数分を大事に受け取ろうと思った。ぽん、と軽い音と共に、レスが届く。


 ”そっかぁ”

 私は、ふふ、と笑った。何十字分の、そっかぁ、だった。


 そのサービスは現在は既に終了していて、私はその子の名前も顔も知らない。恐らく今後会うことはないだろうし、仮に会っても分からないだろう。
 だけど、十数年たった今でも、あの”そっかぁ”覚えてるよ、ありがとう。

  #はじめてのインターネット

この記事が参加している募集

はじめてのインターネット

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?