#6まつりのうらで「二度と来ない」
「...バス、遅いね」
「おかしいな、いつもはすぐ来るはずなのに」
バスの運行状況を示すHPに飛んでみると、目的地の表示は〈繝ェ繝翫Ρ繝シ繝ォ繝〉となっている。頑張っても読めない。
時間きっかり、区間はっきり、頭四角で尻まで四角、それがバスである。
こんなに遅れるだなんて。丸いフォルムならまだしも、四角い顔して時間に遅れるのは、21世紀にもなって許されない...。
「待つのってタイクツ」
「そのあたりを歩いてみる?」
待合所を出る。
自販機・生垣・タイル・市役所・公衆トイレ...
めぼしいものはない。
これからめぼしいところに行く約束だったのだから、当然といえば、そうなのかも。
「ねえ、あそこからワープできないかな?」
「それができたら苦労しないさ」
彼女がぐいぐいと袖をひく。
「しょうがないな」
今日ここへ来たのも、彼女のせいだ。
本当なら、〈繝ェ繝翫Ρ繝シ繝ォ繝〉など興味がなかった。
彼女から、いつも連れ出してもらった。
彼女は、光なのかもしれない。
彼女だったら、本当に〈繝ェ繝翫Ρ繝シ繝ォ繝〉へワープしてしまうかも。
「向こう側から手を引いて」
どきっとした。
小麦色の肌が指先に触れる。僕はそれをふんわりと握る。
ゲートへ、彼女を導く。
バスが来た。
僕はそのままバスに乗った。
何が起こったのかもわからず、彼女との約束を守ろうとして、そのまま...。
ゲートを通過しながら彼女は消えた。
これから、誰が僕を連れ出してくれるのだろう?
誰が僕に光を当ててくれるのだろう?
右の袖がよれている。
このままずっと、このシャツはよれたままだろう。
同じバスは二度と来ないから。
丸い顔をした生き物の中に座りながら、そんなことを考えていた。
<次は~茂吉の里金瓶、茂吉の里金瓶、
〈繝ェ繝翫Ρ繝シ繝ォ繝〉は、このバス停が最寄りです>
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