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リビング・イン・ニア・トーキョー #20

 ニア・トーキョー行きが決定したのは、昨年12月だった。あれよあれよという間に面接を終えて、クリスマスの日に内定通知をもらった。あの辺りから、自分の中で「東京」への期待はふくらむばかりだった。家はどこに借りよう。家具はどんな色で揃えよう。から始まって、引っ越したら最初はどこへ行こう、サッカーも野球も見放題だろうなあ、あ、街コン行こう、などなど。

 こういう言い方をするとアレなんだけど、大学デビューならぬ「転職デビュー」をガッチリ決め込むつもりでいた。だって東京に行くんだし。なんかそれっぽいことしたほうがよさそうじゃん。大学の先生も、「人生で1回は東京に住んで、遊びまくったほうがいいよ」みたいなことを言っていた。ということで、そのありがたい教えを忠実に守るため、僕は4月から遊び人になる予定であったのである。

 そして9月を迎えた。あの時のワクワクはどこへやら。すっかりコロナワールドに浸食されてしまった世の中で、僕はどこに出かけるでもなく、誰に出会うわけでもなく、今日も白い部屋の中でひとり、パソコンをぽちぽちやっている。

...さみしい!!なんだこれは。こんな、こんなはずではなかった。1年ちょっと前の自分と、たいして変わってないじゃないか!!どこへ行ったデビュー!!

 4・5月の臨戦態勢期に比べれば、多少は人に出会うことのハードルも下がってきているようには思う。先週、病院に行く関係で立ち寄った平日朝の日暮里駅はそりゃもう人でごった返していたし、おそらく東京中がそんな感じになっているのだろうが、その割には感染者数が増えているわけでもない。あの光景を体感している人と体感していない人とでは、今の数字に対する印象も相当変わってくるのではないかなとボンヤリ思いながら、こんな感じなら、行けるんじゃね?街コン。と思ったりもする。(余談になるけど、「日暮里」を「にっぽり」と読むことに未だに違和感が拭えない)

 しかし、だからといって嬉々として街コンに行ったとして、万が一コロナワールド入場となってしまったとしよう。そのとき、職場に対してかかる迷惑はそりゃもう甚大である。思うに、感染リスクというのはどこでもそれなりにあるし、自転車に乗ってようが電車に乗ってようがかかるときはかかる、そういうものだろう。けれど、「通勤途中でコロナワールド入場!」と、「街コン中にコロナワールド入場!」では、なんとなく、印象が変わってくるように思う。きっと前者よりも後者の方が居心地悪くなるよね。なんだか、感染そのものに対する世間の目よりも、『何によって感染したか』に対する世間の目があるように感じられてならない。世間体を気にする日本人の性である。いやひょっとしたら、「感じられる」だけかもしれなくて、実際に感染したところで大差はないのかもしれない。ないのかもしれないが、やはり不安は拭えない。

 それでも構わない、俺は街コンに行きたいんだ、という人であれば別にそれでいいのかもしれない。だが、どちらかと言えば、自分にとっていま大事なのは仕事のほうである。何のためにニア・トーキョーに来たのかを考えればいい。それは決して街コンのためではないのである。だから、このリスクを考えると、どうしても不特定多数の人たちと狭い空間でくっちゃべるようなところに行く気にはあまりなれない。「3密」に進んでいくことのリスクは、計り知れない。こうやって街コンへの道は遠ざかっていく...。

 結果として、ハメを外すわけでもなく、ただ淡々と生きている。淡々と。

 ちょっと前に、大学生がオンライン授業ばっかりでぜんぜん友達できないと言ってニュースになっていたのを思い出した。「7月まで友達できないって考えたことありますか?」みたいな論調のツイートがあったように思う。それを見て、「いや勉強しろや」と思ってしまったあの日の自分を戒めたい気持ちが湧いてくる。そうだよな、環境変わったんだから、友達の一人や二人ぐらい作りたいよな。わかるわかる。(28歳男性独身)

 まあ、じゃあずーっと部屋に引きこもっているのかといえばそういうわけでもなく、3密を極力避けられる環境であれば出かけてもいるというのがここまで半年間の「リビング・イン・ニア・トーキョー」であった。先日も、銀座まで行って群馬名物の焼きまんじゅうを買って焼いて食べたし、大井町のグリル神田というお店で8年ぶりにハントンライスを食べた。昔は上野駅で食べられたはずなのにもう売っていなかったのである。おいしかった。

 あとは、たまたま近くに住んでいる小中の同級生とラーメンを食べにいくぐらいのことはできる。結局のところどこにモヤモヤを抱えているのかといえば、「新鮮さ」なのだと思っている。新鮮な経験がもっとできるはずなのに、それが思った以上にできないということに対するモヤモヤ。そして、新鮮な経験とは、新鮮な人によって得られるものであるはずだ。新鮮な人に会いたい。

 あとは、その同級生がゼクシィを買ったという話を聞いたからだろう。

 はー。

(2074字)

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