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今度は私がやられました!

先日

初めての失態!というタイトル
でお伝えした
舞台上で起きてしまった恥ずかしいミスの件。
もちろん起こってはならない事とはいえ、
私達も生身の人間です
やはり私だけにこんな事が起こるのではなかった!
という人間の在り方に
理解の深まる瞬間も多い
ここ、ヨーロッパの歌劇場です!


舞台の上でのアクシデント、
1000人を超える観客の目の前で
絶体絶命の状況を一体どうやって
乗り越えているのか?!

今日も
ここだけの内緒話です。

(これはもう数年前の話ですが。。。)

今日私は
私より一回り若いソプラノパートT子さんの
ポジションを受け持ちます!

その役どころは

若い恋人😍

そう、

舞台上で年齢は問われません!

60名以上いる合唱団員の
年齢差は
ここ私の働く歌劇場、

ぶっちゃけ40歳ぐらい
離れている場合もございます


そんなわけで今日は
若い女の子を演じさせていただきます👍
お客様は私の立ち位置から20mは離れているので
メイクをバッチリして精一杯若さを絞り出し
励んでまいります🤭
パートナーの名前を見ると
音大同期のD男君ではないですか。
背が高く笑顔が素敵な彼、
演技力も抜群!
舞台恋人としてはなかなか良いかな〜

しかし、、、

私に用意されている衣装は
なんと 
喪服....
黒いドレスに
ベールの掛かった帽子。

あらら、、、
今日の恋人の役柄とは合わないじゃないですか?!

あいにくこの作品は合唱団員一人一人に
違う役柄がつけられています。

各パートにはそれぞれ1、2名ほどの
補欠メンバーがいるのですが、
補欠メンバーに与えられる衣装も1着のみ。
その1着で他のメンバーの様々な役どころを
演じないといけないんです。

そんなわけでちょっとチグハグな事が舞台上の
演出設定で起きてしまう事も
起こります。
が、
まあそんなに細かいところまでチェックしている
聴衆の方はいらっしゃらないですよね???

なんと言っても連日オープンしている歌劇場、
私たちだってお休みが必要ですし
人間なので病気にもなりますから
毎日公演で出ずっぱりなんて事は
労働法で許してもらえません。

だからこのようなシフトのシステムも
適用されているのです。

私が勤務し始めた頃は、
このシフト制で必要になる
補欠メンバーの
衣装は用意されておらず、
今日お休みの仲間の衣装を
お借りする、というスタイルでした。

これは役どころとしては
正しい衣装で出演出来るのですが、
問題もありました。

まず、
毎回衣装のサイズが
全く合いません!

超グラマラスな美貌を持った熟女、
今日お休みのGさんの舞踏会用ドレスを
ヨーロッパでは、まあよく見積もっても
12歳ぐらいの子供の
大きさしかない
私が着用する事になります!!

楽屋の皆も衣装の中で泳ぐ私を見て
笑い転げています😩

そこで登場するのは
お裁縫の神様である楽屋付き衣裳係さん

なんと
数十本の安全ピンで
あっという間に
私にとっては布団サイズもあるだろう巨大なドレスを
完璧にフィットするところまで変形完了!!
不可能を可能にする完璧な職人技です!!

が、そこには結構危険があり、
安全ピンが外れてチクッとしたり、
毎回衣装にぶすぶす針を刺すので
高価で繊細な生地がかなり早く傷んでしまいます。

そしてもう一点
衣装に使われる高価な生地は痛みやすいので、
公演毎にクリーニング!!

はしないんです...

舞台は照明もあるし、ダンスなど
動きも激しいので
かなり汗をかきます。
という事は、
もうご想像にお任せいたします。
もし、潔癖症の方がおられましたら

気を失うかも?

この2点は私の勝手な見解ですが、
今では幸いな事に(?)
自分の衣装があります。

そんなわけで今日は
喪服を着た若い恋人が、
逢引きをする。
というシーンを努めます。

まあこれは公演作品の内容には
なんら関係が無いのですが、

しまった!T子ポジションには
ソリストとの掛け合いがあった😨

しかもこのシーン、
合唱団員で舞台上にいるのは

若い恋人のみ!!!

という事は

ロメオとジュリエット
2人だけの設定

だったのね!

若いお兄ちゃん(D男)と

喪服のお姉ちゃん??

これは公演作品の本筋より
やばい設定では?!

大勢のさまざまな役どころの仲間達が
同時に演技をしている場合は
こんな矛盾はさほど目立ちませんが、
流石に今回は
お客様も「???」
と思われてしまうかもしれません。

けれど幕はすでに上がっています

ショウ マスト ゴー オン なのです!

舞台上でほぼ
まる裸のように感じる
こんなアクションは
結構な緊張を伴います。

が、日常的に
しっかりと貯めてある
経験値が助けてくれる!
と、自分を落ち着かせます。

演出ノートもしっかり読んだ!
仲間の個人演出カードもしっかり覚えた!
恋人役のD男はまだ見かけていないが
きっといるだろう。

私の任務は

1. 舞台袖0番から登場
2. 舞台中心でストップ!
3. 貧しい女役のソリストが私のところに来て
 お金をせびる
4. 私は厳しくそれを振り払い後ろを向く!
 そして舞台後方にあるベランダに姿を見せた恋人
 D男を見つけ、喜び、
 舞台下手で会おうと目配せをし、
 喜びながら小走りで退場!!

完璧だ!!
舞台に出るタイミングは一人一人が
しっかり把握しているのですが、
歌劇場は何処でも全てがうまく進むように
念には念を入れています。
出番をしっかりとコントロールするのは
舞台袖にいる舞台監督。
彼は
台本と楽譜を見ながら
出番を待つ全てのメンバーに
絶妙なタイミングで
ゴーサインをくれます。

それでも今日はどうしたことか
不安が消えない私は、

彼に

「ごめん、今日この役ちょっと緊張しています!!」
と囁くと

「大丈夫、しっかり送り出すから安心して!」

と、いつもの爽やかな笑顔を見せてくれます。
私の気持ちも落ち着いてきました。

そして

「若い恋人!Go!」!

舞台に飛び出た!

貧しい女が私を見つける。

私は怪訝な顔を見せるが
舞台中心まで歩いていく。
彼女はかなり近くまで来て、
執拗に
私に何か恵んでくれないかと圧をかけてくる。
その上 
私の腕まで掴んだ!!
「何をするの?!」
驚く私。

そんなのは台本に書いてないけど、

インプロはよくある事

私は若い女の子になりきっているので
可愛くあしらう。

が、今日の貧しい女は
インプロを楽しんでいるようだ。
まだ諦めずにものごいをしてくる。
時間がない!!
私は次のポジションに行かなければならない!!
彼女を押し退け
恋人を探すフリをして後ろを向く。

あれ、、、?

いないよ
恋人が??

D男?!

早く来てくださいよ〜!!
D男??

緊急事態の時間の流れは
本当に遅く
私は
恋人をもう30分は待っているような
体感時間速度を感じています

ここ3次元の世界では
正味5秒ほど経ったくらいでしょうか。。。
しかし
次の音楽がもう待っています。

貧しい女は
「あら、今日はお一人??」
とニヤニヤ囁いてきました。

どうする 私?!
こうなったら長居は無用

なんとか場を濁し
舞台袖に待つ恋人を見つけたフリをして
小走りに走り去る。。。。

一体あの女、何をするために登場したのだろうか?!
という疑問を観客の方々
絶対に持ったに違いありません。

かなり中途半端なシーンになってしまい
恥ずかしくて顔が熱くなっています。
同時に
登場して来なかった恋人D男に
怒りがフツフツと湧いてきました!!
D男!君は私を1人放置して
何処で何をしていたのだ?!


ちょっと待て!

ああ、前回の私のミスの時は
パートナーのバスのH男も
舞台上で穴を掘って
消えてしまうことが出来ない
こんな恥ずかしさを感じていたのだ!!
と、

人にやった事が
しっかり自分に返って来るという

カルマ

を感じた公演でした。。。

H男、ごめんなさい。。。
D男にももう腹は立ちません。

経験値 アップ!

の舞台でした!!🎭
全く辛いのですが
こんな悪夢、
まだまだ
続きます。。。


追記:
D男は何をしていたか?というと
その日彼は休みで
補欠のV男がスタンバッテいました。
が、ポジションを間違って覚えていて
他の場所でスタンバッていて
気がついた時には
もう遅く、出ようにも出られなかった!!
という事だったようです。
この作品かなり複雑で

もっと大変な事が起こったのでした!!




















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