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恋をすると魔法を使える‥‥けどすぐに解けちゃう

好きな人ができた時って、最初の内は魔法が使えることがある。
もちろん比喩だが、自分でも思いもよらなかったことを最高のタイミングで言えたり、その場面で一番最適だと思われることが自然にできたり、相手との距離が急に縮まったりすることがあるので魔法みたいに感じるのだ。


つい先日、むかし大好きだった彼(おじさん。当時62、3歳)とやりとりしていたメールを見つけて、思わず読み耽ってしまった。
時系列で読んでいったら魔法がかかったのと解けてしまったのがよくわかった。
後半は読んでいて泣きそうになった。


私はその彼と出会った時、手書きのカードを渡して想いを告げた。
【今度私のことをお食事に誘って下さい】
という一言と電話番号を書いて渡したのだ。
周りにたくさん人がいたので、
「あとでお一人の時に読んでください」
と言ったのだが、「の時に‥」の辺りでもう彼は封筒を開いてカードを読んでしまった。
私は(あ‥恥ずかしい)と思ったが、彼はその一言しか書いていないカードを見ながら何度もゆっくりと頷き、顔をあげて私の顔を見て、笑顔で、
「わかりました」
と言った。

その日の夜のうちに電話が来た。
「今日はあんな手紙をくれてありがとう。しかもあなたがとてもきれいな子だったからよけいびっくりしたの。嬉しかったです」
と言ってくれた。
(「きれいな子」とかアレですけど、自分を癒すためにノーカットでお届けしています)
「変な子だと思われちゃわないかなって心配だったんですけど」
「ははは。まあ多少は変だけど、ああいうのはとってもいいと思いますよ」
と言って、じゃあ明日食事に行きましょうよと誘ってくれたのだ。
後々まであの手紙(カード)は本当に良かったと何度も褒めてくれた。
秒速で思いついて行動に移したことだったのだが、こんなにうまく行っちゃうなんて。もし普通に話しかけてたらこんな展開にならなかったかもしれない。
魔法?!
私、魔法使えちゃった?!
と思った。


そのあとも、メールをする時にはどう書けば彼が喜んでくれるか、どのぐらいまでエッジを効かせたことを言っちゃっても大丈夫か、深く考えなくても言葉がするすると思い浮かんだ。
そして実際にメールで彼への想いを綴ると、彼からも予想以上の嬉しい返信が送られて来て、私を有頂天にさせた。
「あなたは僕をおかしくさせている」
と言われた時は、心の急所を突かれすぎて真後ろに倒れそうになった。


また彼はセックスも最高に良く、私の嗜好や感じる所をよく理解してくれていた。苛め方と可愛がり方のバランスが素敵すぎて、毎回とても幸せを感じた。


が。
魔法はいつも全然長続きしない。
すぐに解けてしまうのだ。
幸せの絶頂が続いていた頃、彼が仕事で1週間ほど海外に行くことになった。
空港の出発ロビーからもぎりぎりの時間まで、胸が甘く締め付けられるような素敵なメールをくれていた。
それが、帰国した頃にはもう魔法が解けてしまっていたのだ。
すっっかり。
あれーーーーーー??!!みたいな。


何というのか、モードがもう変わっていたのだ。
私が前と同じようなメールを送っても反応が弱い。
彼が帰国してから会った後に、
【花野は僕の癒しだね。あなたといると平和な気分になれる。】
というメールをもらった時、完全に褒め言葉として受け取って喜んだが、改めて考えるとここで既に魔法が解けている感じがする。


嫌われたとかじゃないのはわかるのだが、明らかに彼の心が落ち着きを取り戻してしまっている。
落ち着き過ぎてしまっている。
そうなると私も途端に淋しくなってうろたえてしまうので、事態はますます悪化する。
「時間を作るまで待ってて」と言われているのに、待ち切れずにメールをしてしまって自爆しちゃう恋愛あるあるパターンだ。
会えないと1日1日はとても長い。
でも我慢して我慢して、もうそろそろいいかな?と思ってメールしちゃうのだ。


今回改めて日付を見ていくと、だいたい毎回5日前後しか待てていなかった。
短い時は3日ぐらいでメールしちゃってる。
(いやもうちょっと待て!私!)
と、思わずツッコミを入れてしまった。
魔法はどうした、魔法は。
完全に素で行動してしまっている。


改めて彼のメールを見ると、魔法が解けているのは明らかなものの、ちゃんと1週間に1度ぐらいは優しいメールをくれているのだ。
当時60歳を過ぎた超・忙しいおじさんが、1週間ごとに仕事の合間メールをくれたり、2週間ごとに会ったりするってけっこう大変なことだったと思う。


あるとき彼がメールで、

【あなたのことは可愛い存在だと思っています。だから安心して優しい気持ちで待っていて下さい。】

と言ってくれたことがあった。
今思い返すと、愛されていたかはわからないが「可愛い存在」だと思ってくれていた感じは確かにする。説得力ある〜と思う。
でも当時はあんまり耳に入っていなかった。
相変わらずメールをしてしまっていた。
文面は重たくならないように明るい感じに書いてあるのだが、メール自体が重いことに気づいていない。ばかばか。


そのうち彼も私に疲れてきたのだろう。
だんだん会えることが少なくなり、メールの返信も2回に1回ぐらいしか返ってこなくなった。
ようやく私も(これはもうだめなのだな‥‥)と気づき、メールするのをやめた。
そうしたら彼からもメールは来なくなった。


それからずっと泣き暮らしていたが、そのうち新しい出会いもあり、彼のことを想って苦しくなる時間もだんだんと少なくなっていった。
でも彼は本当に素敵な人だったな、嫌いになることはこの先も無いな、と思った。


半年ぐらい経った頃、突然彼からメールが来た。
【花野、元気ですか。まだ僕のこと好きですか。】
私はもう新しい人とお付き合いし始めていたのだが、思わず返信をしてしまった。
【Rさんがメール下さるなんて嬉しくて泣いてしまいそうです。花野はお会い出来なくなってもRさんのことが一生好きです。】
すると、
【花野に会いたいよ。】
と返信が来て、私は考え込んでしまった。
新しい彼はとても優しい人だったので他の男の人と会ったりしたら申し訳が立たない、という事と、もしここでRさんに会ってもきっとまた同じような展開を繰り返してしまうだろうと思えたのだ。
どうしようどうしよう何て返信しよう、と悩んでいたらRさんから電話が掛かって来た。
もう一気にRさんのことを好きだった気持ちを思い出して涙が出て来た。
でも、その<Rさん 着信>の画面を見つめながら、私は電話に出ることができなかった。


その日の深夜になって、Rさんに長いメールを送った。
【あれこれ悩んでいるうちにこんな時間になってしまってごめんなさい。お電話までくださるなんて、花野は嬉しくて本当に泣いてしまいました。Rさんのことが大好きなので正直に言ってしまいますけれど、花野には裏切れない人ができてしまいました。でも今日Rさんがメールを下さってすごく気持ちがぐらぐらしてしまって、こんな時間までずっとRさんのことを考えてしまっていました。(中略)これ以上お返事しているとますます辛くなってしまうので、もうこれで我慢します。
でもRさんのことを一生お慕いしていますから、花野のこと忘れないでください。
Rさんのことが本当に大好きです。】


翌朝Rさんから返信が来た。
【彼は本当にあなたのことを満足させてくれてる?もしそうでないなら彼のこと裏切って僕のところに戻ってきてよ】
こんな、勝手ともいえるような提案をされても全く嫌な気はしなかった。むしろとても嬉しくてまた涙が出た。
でも、私はもう返信しなかった。



あー書いたらすっきりした。(自己満足)
魔法はもう使えなくなっていたけど、自分の意思で正しい選択ができてたと思う。
あれでよかったのだ、きっと。
ほろ苦いけどハッピーエンドの映画でも見終わったような気がする。









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