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家族が言えなかった言葉「新しい犬を迎え入れよう」

17年間一緒に暮らしたミニチュアダックスフンドの「はな」が亡くなってから2か月経ったある日、私はひとりで買い物をしに車で出かけた。信号待ちをしていると、左側にクラウンが止まった。運転席には60代後半のおじさん、そのおじさんの膝の上には、茶色のトイプードルが座っていた。その光景を見て思わず笑みがこぼれた。

その頃の私は、新しい犬を迎え入れようかと考えていた反面、はなが亡くなった後すぐに新しい犬を迎え入れることは、はなへの裏切り行為のような気もしていたし、罪悪感も抱いていた。だからペットショップには行ってはいけないとも考えていた。

でもその日はどうしても犬を見たくなって、ペットショップへ向かった。

ペットショップには何頭かの犬がいて、店員さんが直接抱かせてくれた。
「はなが亡くなったばかりなのに良いのかな・・・」
少し後ろめたさも感じながら、犬に触れていた。

ペットショップにいた黒いチワワはとても小さくて可愛らしくおとなしい子だった。ジャックラッセルテリアは人懐っこくて、とてもやんちゃな子だった。茶色のトイプードルは抱っこしてもなお私の体を駆け上がり、私にじゃれ付いてきた。そのせいで1週間前に買った私のセーターは、とがった爪が引っかかりボロボロになってしまった。

店員さんからは、
「このトイプードルは成長したら大きめの身体になりますが、丈夫な子ですよ。」
と説明があった。先代のワンコたちは、我が家に来て数日後にはパルボウィルス感染症で入院をしていたため、「丈夫な子」という言葉に希望すら感じた。

ペットショップを出てからも、ペットショップへ犬を見に行ったこと、直接触らせてもらったこと、気になる犬がいたこと、セーターがボロボロになった理由など家族に話すことを迷っていた。

「はなが亡くなってからまだ間もないのにもう次の犬を見に行ったの?ちょっと薄情じゃない?」
家族にそう思われるんじゃないかという思いがあったからだった。

さらにもうひとつ気になっていたことは、気になった犬がトイプードルだということ。夫は以前からこう言っていた。
「トイプードルなんてミーハー犬だよ。」
そう言っていた夫には余計に言いづらかった。

しかし、夫に聞いて欲しかった私はその話を持ち出してみた。夫は否定も肯定もしない様子で私の話に耳を傾けていた。そしてペットショップに一緒に見に行くことも受け入れてくれた。

2日後、家族揃ってペットショップに行きそれぞれの犬と対面した。夫に抱かれたトイプードルは、案の定夫の体を駆け上がりじゃれ付いていた。トイプードルを抱きながら夫はどう感じているのか気になっていると、
「おー、お前、かわいいなー」
と言う夫の柔らかな声が聞こえた。

その場でトイプードルを家族に迎え入れることを決めた。帰りの車でその子の名前を考え、
「家に来る3番目の犬だから、三郎っていう名前はどう?」
と言った娘の意見に夫も私も大賛成だった!

三郎が我が家に来てしばらく経ったころ、夫に新しい犬を迎え入れることをどう思っていたのか聞いてみた。夫も2ヶ月前に亡くなったはなのことを思うと申し訳ない気持ちがあったが、いつかまた犬との生活をしたいと思っていたこと、三郎と出会うまではトイプードルを飼うという選択肢がなかったが、じゃれ付いてくる三郎を可愛いと思ったことを話してくれた。

娘も含め、家族それぞれがはなへの思いがあって
「新しい犬を迎え入れよう」
という言葉を口に出せなかったのだろう。

今でも家族の話題にはなのことが出てきてみんなではなのことを思い出す。そして今でもときどき、はなが亡くなった2か月後に新しい犬を迎え入れた自分を薄情だったんじゃないかと考えることもある。でも、それじゃあ何ヶ月後だったら薄情じゃないのか。

新しい犬を迎え入れる時期は、迎え入れる飼い主が決めたときでいい。それでいい。

トイプードルを飼うという選択肢がなかった夫は、現在は毎日のように
「お~、三郎~、お前は本当に可愛いな~~~!」
ととろけるような声を出しながら三郎を抱きしめている。

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