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晴れの日のご馳走

「週末に焼肉か寿司、食いに行くか。」

夫がそう声をかけてくれたのは3月半ば。夫のゴルフや仕事の都合でなかなか実現することができずにいたけれど、昨日はれて家族揃って焼肉を食べに行くことができた。

隣の市にある人気の焼肉屋。夕方5時の予約に向けて、4時15分に家を出発。

空は晴れ渡り、遠くに見える山肌もはっきりと見え、私が清々しい眺めを楽しんでいる頃、運転中の夫は

「まずはタンだな。途中ホルモンも食べたいだろ。それと今日は生(ビール)は2杯で控えておこう。その後、白飯1杯だな。」

と焼肉オーダーのシミュレーションをしていた。後部座席に座る娘は、数日後に控えた自分の誕生日のプレゼント用に『呪術廻戦』の五条先生のグッズを携帯で探し、隣に座る私に

「これ、可愛くない?誕生日プレゼントでお願いしても良いかな?」

と嬉しそうに画像を見せる。

助手席の義母は、私たちのてんでんばらばらな会話について行けているのかいないのか真相は分からないが、ウンウンと相づちを打っていた。

焼肉店では、注文はすべて夫に任せ、お肉が乗ったお皿が運ばれるたびに私たちは小声で歓声を上げた。計算すると一切れ700円の上タン塩や和牛特選ハラミ。口に運ぶ前から顔がニヤける。

「もう焼けた?もう食べて良い?」

と焼肉奉行の夫に食べ頃を確認し、Goサインを待つ。焼き上がったお肉はそれぞれに合うレモン汁やタレに浸し口に運ぶ。家族皆、頬が緩みっぱなしだった。


食事中に夫が

「焼肉は晴れの日のご馳走だな。」

と言うので、何のお祝いかを考えてみた。思いついたのは娘が高校3年生に進級したお祝いや義母の快気祝い。そして4日後に迎える夫と娘の誕生日祝い。ん?私のお祝いごとが思いつかない。

お祝いごとがあってご馳走を食べるという流れもあるけれど、家族揃って隣の市まで足を伸ばし、ニコニコワイワイしながら焼肉を食べる日こそが、私にとって晴れの日になるのだ。

夫は仕事柄、高級焼肉店に行くことはあるけれど、夜遅くに帰ってきてカップラーメンを漁っていることがある。そんな夫を見て私はいつも「焼肉食べてきたはずなのに、どうしてカップラーメン食べるんだろう?」と思っていたけれど、今回の食事中に夫が言った言葉で謎が解けた。

「若い奴らにたくさん肉を食わせてやらんなん。お客さんの店だから酒もたくさん飲んでこんなんしな。」

焼肉奉行は好きでやっているのかと思いきや、そればかりではなかった。焼くことと配ること、お酒を飲むことが仕事の一部になっていて、気楽な気持ちで焼肉を囲んでいるわけではないのだ。

家族の前なら気楽になれて、自分のペースで好きな分食べられて、好きな分飲めるのだ。そりゃ、夫にとってもある意味、晴れの日になるな。

私の携帯の待ち受け画面は、ちょうど1年前にあの焼肉店の席で撮った、夫と娘が肩を組んで映っている画像だ。二人ともなんとも言えない良い笑顔。その対面では私が二人の写真を撮り、その隣で義母がニコニコ微笑んでいた。




ヘッダーは中目黒土産店さんからお借りしました。ありがとうございました。

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