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SNSは大人を幼稚にさせた。【前編】


 子供がショーウィンドウの前で喚いてる。どうやら目の前のおもちゃ屋に展示されているおもちゃが欲しいらしい。両親に「買ってくれ」とねだり、それを拒否されると、地面に転がって全身を暴れさせはじめた。
 「やだ、やだ」「ぼくはこれが欲しいの」「買って買って」
 子供はぎゃーぎゃーととにかく大声で泣き喚く。困った両親が怒っても、優しくなだめようとしても関係ない。そこにあるのは目の前のおもちゃが欲しいという欲望だけだ。転がって服が地面に汚れようと関係ない。その汚れた服を買ったのも洗濯するのも親であることなんて当然頭にはない。そもそもそのおもちゃがそんなに欲しいのか、ということも考えない。両親は子供を諭す。「同じようなもの、このあいだも買ったでしょ」「どうせ買っても飽きるんだから」しかしそんなことは関係ない。ただ今、自分はこのおもちゃが欲しいのだ。
 周りにどんな白い目で見られようと、そうやって自分が喚くことで両親がどれほど困るかなんて毛ほども考慮しない。いや、むしろそうしたとき、できるだけ子供は親を辱めようとしている。できるだけ困らせようとしている。そうすれば、親がおもちゃを買ってくれる確率が上がることを子供はちゃんと知っているからだ。だから子供は声が枯れても泣き喚き続ける。両親が困り果て、そして自分を黙らすためにおもちゃを買ってくれるまで。


 

 わたしたちは成長すると、大人になる。
 勿論大人になれば、おもちゃが欲しくておもちゃ屋の前で泣き喚くことなんて無くなる。
 大人になれば自分で稼げるようになり、欲しいものは自分で買えるようになるからだ。なによりそうして泣き喚くことによる羞恥心を覚え、理性を得ることによって自分を制御できるからである。

 なぜ子供が子供であるのか。なぜ子供が幼稚なのか。
 それは相手のことを一切考えないからである。
 子供は自分の欲望に率直だ。欲しいと思えば欲しいと喚く。それが与えられないと駄々をこねて泣き出す。地団駄を踏む。
 気に喰わない相手がいたら、とにかく攻撃をする。言葉や手段は選ばない。とにかくできるだけ酷い言葉で、酷い暴力で、相手を傷つけようとする。そこには別に正義はない、下手すれば理由もない。ただ、そうすれば自分の欲望が満たされ、気が済むからだ。
 
 


 しかしわたしたちは成長をして、大人になると、いろんな経験をする。
 たとえば初めてアルバイトを始めたときに、一時間働いてもたった数百円しかもらえないことを知る。こんなにきつくて大変で、しんどくて、なのに数百円しかもらえないことを知って、自分が子供のときにねだり、買ってもらえるのが当たり前だと思っていた数千円のおもちゃを買うのに、どれほど親が頑張って稼いでくれたことを知る。自分が当然のように与えられていた服、食料、寝床、あたたかいお風呂、それらにはすべてにはお金が掛かっており、それを毎日得るためには、そうやって親がきつくて大変でしんどくて、毎日辞めたくなるような仕事でも、歯を食い縛って続けてくれているから得られているものだということを知る。
 そうしてお金の有難みを知った子供は、たとえば親からお金をもらわなけらばならないとしても、「ごめん、ちょっとあれが欲しいんだけど、お金が足りなくて……」と非常に申し訳なさそうに親に申し出ることができる。そこにはちゃんと、親のことを考慮しようとする気持ちがある。そこにはもうショーウィンドウの前で喚いているだけの子供はいない。そうして子供は大人になっていく。
 

 たとえば一人暮らしを始めたとする。
 そうすると初めて、毎日3食、当然のように食事が出ていたことがどれほど有難かったかを知る。初めて料理を作ったときに、「こんなにも料理って大変なのか」と愕然とする。手間もかかる、時間もかかる、お金もかかる。なのに子供の頃、まるで自分は貴族のように椅子にふんぞりかえりながら、「まだご飯はこないのか、遅いな、早くしてほしいな」と思っていた。「こんなのまずい、嫌い、食べれない」と作ってくれた母親に言っていた。嫌いな料理をこっそりと捨てていた。そのとき捨てた人参を買うのに、母親が仕事終わりにどれほど疲れた身体でスーパーに行って、重い荷物を持って帰ってきて、疲れきっていてもソファーにも座れないままそのまま台所に立って、その人参に味付けをして、その味付けを考えるのにも時間がかかり、その一つ一つにちゃんとお金がかかっていて、そのお金を得るためにも時間と労力がかかっており、それが食卓に並ぶまでにどれほどの、めまいがするほどの時間と労力を親がかけてくれていたのか、そんなことも知らず、考えようともしなかった子供は、ごみ箱に人参を捨てていた。




 それを知るから、わたしたちは大人になっていくのではないのか。

 しかし昨今のネット社会を、そしてSNSを見ていて、思うことがある。



【後半へ続く】
 





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