見出し画像

ミック・ジャガーの声について

あんたはぼろぼろの
服をまとって
路地裏に酔い潰れてる
深夜の仲間はみんな 
冷たい闇にあんたを
放ったまま消えちまう
たくさんのハエどもが
あんたにたかるんだ
俺には掃いきれないよ

天使たちが翼をひろげて
時を刻んでいる
微笑みながら
瞳を輝かせながら
俺にはあんたへ送る
囁きが聞こえるんだ

目をさまして
目をさまして さぁ
目をさまして さぁ

─ ローリング・ストーンズ「Shine A Light」(1972年)より ※対訳


ミック・ジャガーは昔から、報われない痩せた不良の声をしている。

見た目からくるイメージもゼロではないが、歌声を聴くとそういう男性像が見えてくる。裏町で悪い奴らと時間を共有しているのだが、それは成りゆき上やめられない格好つけで、心の奥底では陽のあたる世界で平穏に暮らしていたい、とか、そういうあおくさい不幸にとり巻かれている輩の声だ。

「Shine A Light」の歌詞には、失恋か何かに傷ついてぼろぼろになっている女と、好意をもっていると思しき男が出てくる。2番から挿入されるゴスペル調のコーラスは、彼女に再び降りそそぐ陽光のよう。ぼくには英語力がまるでなく歌詞のことは単語レベルで断片的にしか聴きとれないのだが、本曲に関しては後で歌詞カードを読んだらびっくり。思い描いていた光景とほとんど変わらなかった。解読の決め手はやはりミックの声なんだと思う。

ミック自身はナン十年と世界屈指の大富豪で居続けているのに、イメージというのは不思議なもので、彼の歌声の中で生きてきた不良は今も薄汚い裏町に身をひそめている。たぶん、ぼろぼろになった彼女はいつか立ち直って元の世界に戻れるけれど、男のほうは戻りたくても戻れない。ならず者のままであるに違いない。

「Shine A Light」が収録されたのは、ストーンズの最高傑作とも評されるアルバム 『Exile On Main St.』である。地元英国の高税率に嫌気がさして南仏に移住した、当時の彼らの心境。あるいは、英国人でありながらブルースに魂を捧げた彼らの生きざまが大いに反映したアルバムといえる。

スタジオ録音ではキース・リチャーズ不参加という変則的な演奏編成だったせいか久しく代表曲には数えられてこなかったが、00年代後半にマーティン・スコセッシが監督したコンサート映画の題名に起用されたので以後曲名だけは知名度が上がっているのかも知れない。

ストーンズが結成されて間もない頃、鏡の前でステップの練習ばかりしているミックをそばで見ていた当時リーダーのブライアン・ジョーンズはキースに「ボーカルを替えよう」と真剣にもちかけていたらしい。それをキースが頑なに阻止しなければ、世界最高峰・最長寿のロックンロールバンドは存在しなかったわけだ。助かったよ、キース。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?