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カセットテープの話

2~3年前、音楽業界がカセットテープ市場の復刻を狙っている時期があった。流行ってるってことにしてメディアも度々取り上げていたが、一部の物好きなアーティストがノベルティグッズとしてカセットシングルを発表していただけで、肝心のオーディオメーカーがかつての高品質なCDラジカセや安価のカセットテープを再販売することはなかったので、結局そのまま断ち切れてしまったムーブメントである。

ぼくはそれよりも少し前から、職場ではずっとカセットテープ生活を続けている。理由は、邪魔にならないサイズのCDラジカセだとCDの音飛びやエラーの頻度がひどいのだ。はじめから再生できないものまであるので頭にきて「じゃあカセットテープにしてやる!」ってことになった。自宅に1台だけ生き残ってる、信頼できるオーディオでCDからダビングして聴いているのだ。すっかり20世紀の学生時代と同じになり、マイテープの編集に明け暮れていた日々のことを時々思い出す。

そもそも、ぼくはカセットテープがとても好きだ。MDを手にしてからもその愛着はしばらく薄れなかった。何がいいのか、まずA面とB面がある。レコードと同様に裏表があるカセットの編集は、MD以降の音楽メディアよりもクリエイティブな気分が味わえた。音楽プロデューサーの真似事がしたい小僧の欲求が叶うわけである。

音質が著しく劣化することに関しては、既成作品と違うものを録音できるというポジティブな見方をしていた。好きな音楽が少し濁って聴こえる現象は、ラジオからふいに流れてきたときの趣にも似ているので、矛盾した感情ではあるが、なんか素敵に思えたものだ。今はそのラジオも、データ配信市場によりノイズ1つない聴取環境に画一化されていく傾向にあるようだが、そういうのって如何なものか。限度はあるにしろ、ラジオならやはり少しはパリパリ言ってみたらどうだ、みたいな気持ちがある。リスナーはわがままなのである。

カセットテープに編集するときは大概、紙とえんぴつを用意して収録曲の演奏時間を計算した。宿題のときよりも、たくさん数字を書いていた気がする。74分テープなら片面は37分で…とか真に受けてはならない。実際はそれより1分強は長く録音できる。ピッチリ入れたいもんだから、あらかじめテープを最後まで送ってデッキのカウンターを確認し、逆算して収録曲を決めたりしていた。とかく暇だったのだ。ベスト盤に絶対入らないコアな曲だけを集めて、オリジナルアルバムっぽく並べて聴くとか、しょっちゅうやった。誰に聴かせるでもなし。楽しかったんだな。

今、移動中手にしてるのはさすがにデジタルのウォークマンなんだけど。常時ナン千曲と音楽を持ち歩いていることは無粋だという価値観は、今世紀もまだぼくの中でA面のままである。

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