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執念第一 #毎週ショートショートnote

 「お客様第一よりも執念だ! 執念第一で契約を取ってこい!」

 それが口癖だった上司のパワハラのせいで退職した私は、その後も上司の顔がフラッシュバックする症状に悩まされていた。

 テレビ体操第一を見て動悸がしたり、運転中、安全第一の看板に動揺して事故りそうにもなった。《第一》という字を見ると《執念》を連想し、上司の顔が浮かぶ。そんな呪いをかけられているようだった。

 今、私の唯一の楽しみは、娘が出場する陸上大会を観にいくことだ。リレーの選手に選ばれ、頑張る娘を見ていると、励まされる思いがした。
 しかし、そんな私に娘は言った。

「観に来ないで」

 娘もこんな父親を友達に見られたくないのだろう。ショックのあまり、私は叫んだ。

「お父さんのことが、そんなに恥ずかしいのか!」

 娘が声を震わせる。

「…私、リレーの第一走者になったの」

 その夜、私は、バトン片手にスタートを切った娘の顔が、徐々に上司の顔に変貌していく悪夢にうなされた。


 



(410文字)
 書いていると、三題噺を考えている、落語家の気分になってきます。先週初めて参加させて頂いたのですが、なんと1周年なんですね! おめでとうございます!


お読み頂き、本当に有難うございました!