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秘伝!? 煎餅再生術

夫が台所でなにかしている。ゴソゴソ、バタン。

ムーーーーーーーン

電子レンジの音がする。何かを温めているらしい。

ピッ!

とレンジを止める音。良い頃合いになったのだろう。
醤油の香ばしい香りが漂ってきた。
夫が小皿に乗せた煎餅を持ってくる。すぐには手を付けない。
私が物欲しそうな顔してみると、夫はパリンと割って
ひとかけ私に温めた煎餅をくれた。
自分で物欲しそうな顔をしたくせに

「あら、悪いわねぇ」

などと言い、温まった煎餅を口に入れる。
温かさの残る煎餅と一緒に、
醤油の香ばしさだけでなく、お米の風味も感じられる。
目を閉じて味わえば、
頭を垂れた稲穂の田園風景が浮かんでくるような気がしてくる。
とにかく、それだけ口の中が香りでいっぱいになるのだ。
これね、一口だけ食べるのがいいんです。
だから、いつもひとかけだけ割ってもらう。
ひとかけだけだと味わって食べられるだけでなく、口に残る余韻が楽しい。
その余韻を、緑茶で流し込んでさっぱり。
本当に、煎餅とお茶は最高のお供だと思う。

煎餅を湿気させてしまった時にも、使える技なのだが、
より煎餅の香りを楽しみたい時にも、こうしてひと手間かけて食べている。
この技、ずっと我が家の、いや、夫の秘伝なのだと思っていたのだが、
煎餅 レンジ
で検索してみたら、出るわ出るわ、
テレビでも紹介されているメジャーな技のようだ。

私は、自分で煎餅を温めて食べることはない。
たとえ湿気ていても、その湿気たのがちょっと好きだったりするからだ。
ぬれ煎餅という食べ物があると知った時は嬉しかった。
醤油がしみた甘辛い味わいが、ぬれた煎餅のもっちりとした生地とともに、
舌にまとわりつき、歯にまとわりつき、
あー、銀歯が取れるんじゃないかとか心配しながら
1枚2枚と止まらなくなるから怖い。
その点、レンジ煎餅はさっぱりしたもので、ひとかけで満足させてしまう。

レンジ煎餅は人によっていろいろやり方があるようだ。
20秒レンジをかけたら、ひっくり返して20秒…など
明確に方法を提供しているサイトもあった。
では我が家のやり方はどうなのかと、
夫のやり方を観察してみることにした。

小皿に乗せた煎餅をレンジに入れる。
500W、3分にセットし、加熱スタート。
夫、煎餅をガン見。更に覗き込む。
20秒後、煎餅をひっくり返す。
更に13秒後、煎餅の向きを変える
更に更に10秒後、煎餅の全体を見て、匂いを嗅ぐ。
まだ終わらない。
それから10秒後、また取り出して全体を見る。そして煎餅を叩く。
やっぱり嗅ぐ。
またもや10秒後、取り出して全体を見る。今回は叩かない。

……そして10秒後…夫が頷いた。どうやら完成のようである。

しかしすぐは食べられない。ほんの少し冷めるのを待つ。
ちょっと冷めたくらいがカリッとして美味しいのだそうだ。

我が家のレンジは、レンジの扉を開けると、加熱を停止し、
残りの時間が記憶される。扉を締めて、またスタートボタンを押すと、
再度加熱を開始できるレンジだ。
だから、温め中の夫は扉を締めたり閉じたりと忙しい。
煎餅の様子を観察しながら加熱しているのがわかる。

「なんかコツはないの?」
私が聞くと、夫は要点を上げてくれた。

・ホワホワした湯気が出たらひっくり返す。
・温めて、もうちょっとかな?というくらいで止める。
・予熱でも加熱されるのでやりすぎない。
・色合いは、ちょっと色づいてきたくらい。
・醤油の香ばしい香りがしたら止める。

ほうほう、なるほど、とメモをとる私に夫が言った。

「でもね、煎餅によって湿気ぐあいが違うからね。
もしコレと同じように作りたいなら見て憶えるしかないよ」

ネットで検索したら数多出てくる湿気た煎餅再生術なのであるが、
やはり、この技、夫の秘伝なのかもしれない。

お読み頂き、本当に有難うございました!