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崩れた肉団子を救え!

「あんた、主婦歴何年目よ!」
鍋の中で崩れた肉団子を目の当たりにし、
私は私に叫んだ。これは緊急事態である。
今すぐ、この肉団子の応急処置をしなければならない。
再生の道はあるのか?
それとも違うものに変身させるか。
考えてるうちにも、肉団子はだらしなく煮崩れる。

煮崩れの原因は、肉ダネのつなぎに使った、厚揚げ。
普通の厚揚げではない、最近良く見る、モチモチしたタイプの厚揚げだ。
そのまま焼いて食べれば、新食感の美味しさがある。
そのモチモチとした厚揚げをツンツンしながら魔が差した。

肉団子のつなぎに入れたら、美味しいかもしれない!

これが敗着の一手となってしまった。
そのまま食べておけばいいものを、探究心に勝てなかったのである。
モチモチの厚揚げは、ひき肉と混ざり合い、もったりと、その弾力を増している。ここまでは期待できたのだ。
しかし、肉ダネを湯に放ち、浮き上がってきたものを取り上げようとしたら、モロモロと崩れる。
UFOキャッチャーか! というほど、つかみにくい。
どうやら水分を含みすぎて、崩れてしまうらしい。
モチモチ厚揚げの保水力すごい!化粧水にしたら売れるかも!
などと一瞬思ったが、それどころではない。

とりあえず、肉団子を引き上げ、少し形を成形して、
2つばかり、少量の油で揚げてみる。
もしうまく固まったら、揚げ団子に変身させようという魂胆だ。
しかし、残念無念。モロモロと崩れた。失敗である。

ならばやむなし。
肉団子を崩して、フライパンで炒りつける。
そぼろに変身させようという魂胆だ。
しかし、コレがなかなかの強敵。
すごい保水力なのだ。炒めても炒めても、モッタリする。
そうなるとだんだん不安になってくる。
コレを食べられるものに仕上げることはできるのだろうか…。
でも、信じるしかない。
何も考えず無心に炒め続けた先に、きっと何か見えてくるはずだ。
肉団子は、冷凍用の作りおきにするつもりだったので、
今日の食卓にのることはない。焦らず炒め続けよう。

30分経過…

ようやくそぼろ状になってきたが、何だか違う。
やはり、どこかモチモチしたそぼろである。
こうなると迷うのは味付けだ。
甘辛醤油味か、麻婆豆腐味かで迷っていたが、
どちらもモチモチしていたらおかしい。
ある程度モチモチしていても大丈夫そうなものはなんだろうか。

カレーだ…

ドライカレーなら、何とかなるんじゃないか!
私はエスビーの赤い缶を取り出した。
カレー粉である。
ふりかけて、炒め合わせてみると、カレー粉が
うまい具合に、モチモチのそぼろにまとわりつき、
より、そぼろ状に変化した。いいぞ!いいぞ!カレー粉!
これは逆に発明になるんじゃないか?
新感覚のモチモチ食感のドライカレーが今、大人気!
などとテレビなんかで取り上げられるかもしれない。
急に話が壮大になったところで、
ケチャップとソースで味を整えて味見してみる。

…まぁ、悪くはない。
でもドライカレーの食感じゃないなぁ。これは何だ?
私は長考に沈んだ。

「デンブだ…」

私はつぶやく。
デンブとは、あのちらし寿司などにのっていたりする、
あのピンクのホワホワした食べ物だ。あの食感なのだ。
これは、カレー味のデンブだ。
何に使ったらいいんだ…やはりご飯にかけてみるか…。
かけてみる。

「デンブだ…」

何というか、生タイプのふりかけのようでもある。
ドライカレーの概念ではない。
しかし、何とか食べられる状態に救済できた。
ホッとしつつ、冷まして、使いやすいようにほぐして冷凍した。

姿を変えた元・肉団子は、ふりかけのようにして食べたり、
ホットサンドの具にしたりして、現在消費中である。
そして食べる度に、デンブだ、と思ってしまう。

人生、冒険に失敗することもある。
しかし、挑戦する心を忘れたら、新しいことは何も始まらない。
失敗を恐れるより、たとえ敗着となろうとも、新手を繰り出す。
その探究心が大切なのだ。
とにもかくにも、カレー粉の懐の深さには脱帽である。

お読み頂き、本当に有難うございました!