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声に出して読みたいスイーツ

 日本では、今までたくさんのスイーツが登場してきた。その中でも、一大ブームを巻き起こすようなスイーツには、やはり流行するべくして流行した理由があるように思う。味や見た目もさることながら、どのスイーツにもその名前に、声に出したくなるような言葉の響きがあるのだ。

 タピオカを飲むことを「タピる」などと言うのも、その味や見た目以上に「タピ」という言葉の持つ愛嬌のようなものが、人々の心をとらえたのではないかと思う。 

 今ではすっかりおなじみになったティラミスだが、その名前も、音の響きだけ聞いてみると、どこかの国の王室の姫君と勘違いしそうなほど、上品で愛らしい名前だ。

「今日、○○国のティラミス王女が初来日しました」

 なんてニュースが流れてきたら、どれほど愛くるしい王女様が飛行機のタラップを降りてくるのかと期待して、テレビの画面を凝視してしまいそうだ。ティラミスは面白い名前と言うよりも、美しい言葉の響きを持った素敵な名前だと思う。


 そのティラミスが流行した後、ナタデココという不思議な食感のスイーツが流行した。こちらも現在日本に定着し、ナタデココゼリーなどがスーパーで気軽に買えるようになっている。

 今でこそ、ナタデココはナタデココだが、流行した当初は、その名前に、少々驚いたものである。日本人にとって、ナタといったら、やはりあの日本昔話で登場するような、なたを思い浮かべてしまうからだ。

 日本では、それまで、

なたでここの薪を割っておいてくれや」

 という会話が、幾度となく繰り返されてきたはずだ。それがスイーツの名として流行したのだから、長年、薪割りをしてきた皆さんも、最初は混乱したに違いない。
 今、パソコンで「なたでここのまきを」と入力したら「ナタデココの薪を」と変換された。今や日本語入力機能においても「鉈でここの薪」よりも「ナタデココの薪」の方が言葉としての使用頻度が高いとみなされているのだ。舶来物のスイーツの浸透力は恐ろしい。

 オヤジギャグの餌食となってしまったスイーツといえば、何と言ってもパンナコッタである。
 パンナコッタが大流行したとき、世の愛すべきオヤジ達は、

「パンナコッタが流行るなんて、なんてこった!」

 と言うのを、どうしても我慢することができなかった。これを我慢しろと言うのは、オヤジに「息をするな」と言うのと同じである。
 人間は、不意に思いついたギャグを口にするまでの考慮時間が、年と共に、年々短くなっていくものなのだ。これが本物のオヤジともなれば、吐く息とともに、口をついて出てしまう。これを抑制できる人は、相当我慢強い人か、もしくはオヤジの皮をかぶった宇宙人の可能性すらある。


 イタリア語で、パンナは生クリーム、コッタは火を通したという意味だ。作り方がそのまま名前になっている。パンナコッタは簡単に言えば、生クリームをゼラチンで固めたもので、初めてスイーツ作りに挑戦したい方でも気軽に作れるところが素晴らしい。

 
 近頃では、マリトッツォという名前のスイーツをよく見かけるようになった。切れ込みを入れた丸いパンに、生クリームが大量に詰め込まれている。その見た目のインパクトはなかなかのものだ。
 オヤジギャグにはなりそうにないが、やはり名前は面白い。マリで可愛らしさを演出し、トッツォが破裂音的なスパイスとなって、耳に響いてくる。口に出さずにはいられない名前だ。我が夫は、スーパーでこのマリトッツォを見かけると、
「トッツォ、トーッツォ、マリトッツォ~~♪」
 などと、小声で自作の歌を歌っている。

 しかし、私はこのマリトッツォに、なかなか手を出せずにいる。この手のおやつにハマってしまうのは大変危険だ。私は食べることや飲むことにおいて、全く我慢の利かない女なのだ。洋菓子店でしか買えないのならまだしも、スーパーやコンビニで手軽に買えるようになってしまった今、我慢のしようがない。
 しかも、食べ方が非常に難しそうである。生クリームとの格闘を予感させるスイーツだ。手に付いたと思ったら、口に付き、かじりついたら鼻の頭に付いてしまう。そうやって格闘している間に、気が付いたら食べ終わっていた、何てことになりかねない。

 しかしよくよく考えてみると、ティラミスも、パンナコッタも、マリトッツォも、イタリア発祥のスイーツである。(ちなみにタピオカは台湾、ナタデココはフィリピンが発祥といわれている)
 昨年の緊急事態宣言の際、スーパーのパスタ売り場の棚がガラガラになったことを考えても、日本人のイタリア料理好きは、相当なものがある。もちろん口に合うということもあるのだろうが、きっと日本人は、イタリア語の持つ言葉の響きに、日本語にはない楽しさを見出しているのかもしれない。

 口にして美味しく、声に出して楽しいイタリア食は、これからも私たち日本人を楽しませてくれるだろう。マリトッツォに続く、声に出して読みたいスイーツは何か。その登場が、今から楽しみである。




斎藤孝先生のこの本も流行しましたねぇ。

お読み頂き、本当に有難うございました!