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春に戸惑う、今日此頃に


冬から春になり、葉桜になっていくこの頃、
脇を見れば、雑草が芽吹き、
花壇に、色とりどりのきれいな花が咲いていたりする。
鼻をくすぐる春の空気というのは、まったり、とろとろと、体を包み、
その重みで起き上がれないような、妙に気だるいところがある。
今日は夕方から雨になる、という予報のある昼間などは、
その気だるさが一層、体にまとわりついて離れない。

ぼんやりと活字を追うも、同じところを
行ったり来たりしてしまい、なかなか捗らない。
頭の中に、何か薄靄がかかったような、
このまま床について眠ってしまったら、
二度と起き上がれないのではないかという不安が頭をもたげる。

季節の変わり目というものは、目に見えない力が
うねって巻き上げるような、移ろう気配にみなぎっている。
特に春になる時の、変わろうとする強い力は、
その後の人間の体に、若干の疲労を残すようなところがある。

自然が織りなす力に、人間はいつだって、
後からついていくのが精一杯だ。
先回りしたつもりになって、洋服を買ってみても、
その中身はいつだって、一歩だけ遅れて歩いている。
自然と足並みをそろえることができるようになるには、
己を信じて、自分を今に、委ねてみなければならない。

ようやく体が季節に馴染んできた頃には、
どうやら、すでに、次の季節が顔をのぞかせている。

その気配は、ぼんやりとした焦燥感を伴う。
時が過ぎていくことに、人は、まるで何かを失ってしまうような
奪われていくような気持ちになってしまうのだ。
今、がここにあるのに、そこに自分はいないようで、もどかしい。

心のざわめきと気だるさを感じることに、
人は、いくばくかの憂いをその胸に残してしまう。
そんな日に出会ってしまった時には、
自分や人のせいにすることから気持ちを離して、
少しだけ、春に疲れてしまったようだと自分をなだめ、
浮いた心と体が引き寄せ合うまで、
深く、お腹を満たすように、息をしていればいい。

外で、鳥が鳴いている。やはり、今は春だ。
小雨が降りそうな空気の中、
鳥が奏でるその音色は、
全てをなだめるように私の耳に流れこんだ。





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