「何が好きか」を褒められたい
「いいっすね。スポーツ好きですね」
これは、わたしが入院していたときに、ある若い先生が掛けてくれた言葉だ。
なんだかとても嬉しくて、心に残っている。
わたしが最初に入院したのは夏だった。
病院でレンタルできるパジャマみたいなやつを着るのは、ザ・病人という感じがするから嫌で、バスケをやっていたときに着ていたTシャツやバスパン(緩めのハーフパンツ)を身につけていた。
「バスケやってたの?いいですね。スポーツやってた人は回復早いですよ」
その先生は、初めて顔を合わせたときにそう言ってくれた。
(バスケにはどれだけ感謝してもしきれないなあと思った。)
それからしばらくして、何かの会話の流れで、先生が野球好きであることがわかった。
「みうらさん、野球みる?」
うちは父も母も巨人推しだ。
テレビで野球中継がやっていると、自然とみんなで見るような環境だった。
なので素直に、
「ちょっと見ます」
と答えた。
「どこファン?」
「うちはずっと巨人ですね」
「そうなんだ。岩隈引退しちゃったね」
「あー、そうですねえ。残念です」
そんな感じの会話をしていると先生は楽しそうで、意外な一面が垣間見えてほっこりした。
その日の夕方、回診にやってきた先生と、また野球の話をした。
「好きな選手とかいる?」
「広島の菊池が好きです」
巨人ファンと言っておきながら、わたしの中でのいちばんの推しは菊池涼介選手だった。
「あー、忍者!すごいよね!あの動きはバスケにも通じるものがありますか?」
先生はそう尋ねてきた。
「うーん、ああいう選手はどんなスポーツでもできるんだろうなって思います(笑)」
わたしがそう答えると、
「ああー、そうだね!たしかに!そうかもしれないね!」
と、先生は妙に納得してくれた。
そして去り際にあの一言
「いいっすね。スポーツ好きですね」
わたしは、首がもげそうになるくらい大きく強く頷いた。
そう。そうなんです。
本当のわたしは、病気にかかってベッドのうえで一日を過ごしているわたしではなくて、野球をみたりバスケをみたりバスケをしたり、ミーハーだけどラグビーをみたりバレーをみたりして、トッププレイヤーって半端ねえ!と感動しているわたしなんです。
上手く表現できないけれど、自分の本質の一部をちゃんと見てもらえて、フラットになれた気がして嬉しかった。
この出来事から、「あなたって〇〇が好きだね」という言葉が、わたしにとって最高の褒め言葉なんだ、ということに気がついた。
驚くことに、極稀に、こんなわたしでも「かわいい」と言っていただけることがある。
でもそう言われると、卑屈で自信のないわたしが出てきてしまって、なんと答えたらいいのかわからずに困ってしまう。
一方で、わたしの持ち物とか身につけているものを褒めてもらえると、素直に喜ぶことができる。
直接的に自分が褒められているわけではないからリアクションがしやすいというのもあるけれど、1番は、わたしが好きで選んだものを褒めてもらえることで、わたしの内面を肯定された気持ちになれるのだと思う。
他にも、「バスケ上手いよね!」と言われると困ってしまう(これは卑屈とかではなく本当に下手なので(笑))けれど、
「みうらって本当にバスケ大好きだよね」と言ってもらえると、死ぬほど嬉しい。
後者のほうが、わたしのことをちゃんと見てくれてるんだな、と感じる。
「好きなもの」にはその人の価値観や生き方が、前向きに現れていると思う。
価値観や生き方というのは、その人の本質に近いもので、その人がとても大切にしているものだ。
だから、
「自分の好きなものを認めてもらえる≒自分のことを認めてもらえる」
なのだと思う。
わたしは、自分のことを表現するのが大の苦手だけれど、自分が何を好きなのかを知っていれば、なんとなく上手くいきそうだなと感じた。
自分の好きを共有できたり、違った好きを認め合ったりできる人が、一緒にいるべき人なのだろうと思う。
だから、今いるそういう人と、これから出会うそういう人をちゃんと大事にできるように、好きなものを好きという気持ちだけは大切に持っていたい。
そして、大切な人の好きなものも、ちゃんと大切にしていこう。
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