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「常識ないなあ」に込められた思いについて考えてみた

「常識」という単語に続く文言として、ぱっと思いつくのは何だろう。

 ・常識に縛られる
 ・常識を打ち破る
 ・常識を超える

どうやらわたしは、「常識」というものにあまりいい印象をもっていないらしい。
たしかに「常識」は、個性を奪うもの革新的なやり方を阻むもの、というようなイメージがある。

さらに、「常識」を求められることで、ある種の生きづらさが助長される気がする。

例えば、「知り合いに会ったら挨拶をする」というのは常識と言えるだろう。
しかし、とてつもない人見知りであるわたしにとって、他人に自分から声をかけるということはハードルが高い。とてもドキドキする。体力を消耗する。
挨拶は苦手。だから、常識も苦手。

常識すらもまともに遂行できない、という思いは生きづらさに繋がりがちだ。

それともうひとつ。
「常識ないなあ」と言うとき、そこには相手を軽蔑するようなニュアンスがこもってはいないだろうか。
得体の知れない「常識」というものに勝手に他人を閉じ込めて、安易にその人を軽んじてしまうような風潮があるのではないか。
それは、なんというか、健康的な状態ではないように思う。


ここまで、常識なんて嫌なやつと書いてきたが、
わたし自信、他人に対して「この人常識ないなあ」と思ってしまった経験がある。

それはおよそ1年前、高速バスに乗っていたときのことだ。

高速道路を降りたバスは、その市内でいちばん大きい駅に停車した。
わたしはその先の終点まで行く予定だったので、座席にすわったまま、慌ただしく身支度を整えて降りていく乗客を見送った。

ほとんどの乗客が降りて行き、再びバスが動き出す。
目に見える範囲の座席は、全てが空席になった。
その時ふと、ひとつの座席に目が留まった。

背もたれが、倒れたままになっている。

最初は、なんか残念だなあ、と思った。
それから、その残念という思いを「あそこに座ってた人、常識ないなあ」という言葉で捉えた。

その思考の過程は、ほとんど無意識だった。

あれっ、と思った。
常識が好きではないと思っていたのに、他人には常識を求めている。
とても矛盾している

どうしてだろう。
わたしは、この矛盾について考えてみた。

まず、「常識ないなあ」は「残念」という思いの言い換えとして出てきたものだ。
無意識に言い換えているから、見逃してしまいそうになるけれど、本質的な思いは「残念」のほうだ。

そして、「"降車時には背もたれを戻す"ということを"常識"と思っている」ということは、
「降車時には背もたれを戻さなければいけないと思っている」という意味だ。
なぜ、降車する時には背もたれを戻さなければいけないのか

それはきっと、乗客が全員降りたあとに倒れたままの背もたれを直すという、運転手さんの作業(負担)をなるべく減らすためではないだろうか。

倒れたままの背もたれがひとつくらいだったら、そんなに負担じゃないかもしれない。
しかし、全部の座席の背もたれが倒れたままだったら、いくら仕事とはいえ、運転手さんの負担は半端じゃない。
わたしだったら絶対に舌打ちする。

そこまで想像力を働かせて、初めて気がついた。
これは「常識」ではなくて「思いやり」あるいは「気遣い」というものだ。
常識ないなあ、という言葉が、残念という気持ちに結びついていたのも、おそらくそういう理由からだ。

これは、わたしにとって大きな気づきだった。

「常識ないなあ」と言うとき、その人は「もっと思いやりを持とうぜ」と言っているのだ。
そこにあるのは相手を軽んじる気持ちではなくて、もっと周りを尊重しようよ、という思いだ。

そう考えると、「常識」は悪いものではない。
「誰かを思いやる」ということは、自分が健康でいるためにも周りの人が健康でいるためにも、必要なことだと思うからだ。

独善的な意味で「常識」という言葉を使う人もいるだろう。
世間が勝手に決めつけている常識も、もちろんたくさんある。
その場合の常識は、ただの押し付けだ。
そういう常識には、縛られなくていい。きっと、そういうことだ。


最後に、わたしが苦手とする、
「知り合いに会ったら挨拶をする」
という常識について、少し考えてみる。

挨拶をするということは、その相手に対しての、次のような意思表示ではないだろうか。
「わたしはあなたの存在を認めています」
「何か困ったことがあったら、気軽に声をかけてくださいね」
だから、挨拶の積み重ねは、その人との信頼関係を築いていく。

この常識もまた、周囲に対する思いやりから派生してきたものだと言えそうだ。


…ちょっと無理があるかな。

いずれにせよ、わたしはそうやって納得できれば、苦手な挨拶を克服できるかもしれない。
ちょうど年度も変わるし、かんばってみようかな。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!



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