2021年3月の記事一覧
Baby,it's time-吉野さん-【小説】
人一人入りそうなガラスケースが、いくつもいくつも規則的に林立している暗い館内で、タツロウはそのガラスケースに納められた一つ一つの仏像をとても時間をかけて眺めていた。ガラスケースからの白い光がタツロウの顔を照らし、透け具合が幻想的だった。展示物がタツロウなのか仏像なのかわからなくなるほどだ。
法隆寺宝物庫館は空いていた。
みはしのあんみつを食べた後、急に『博物館に行きたい』とタツロウが言ったので寄る
Baby,it's time-あんみつ-【小説】
幽霊は願いが叶えば成仏するのかと思っていたが、そんなことはまるでなかった。
「年下にモテまくるのですよ、春原先輩~…対処が面倒なんですよ~」
酔ってそんな風にクダを巻く後輩の斎藤は、差し向かいに座ってハイボールに付いていたレモンをかじり始めた。
「そうかい。そりゃあんたがなんだかんだで床を共にしちゃうからだよ」
と当たり前のことを言ってやりながら、私なんていま幽霊にモテまくりですよ、と思った。
事
Baby,it's time-スプモーニ-【小説】
握った手に温度があったことに驚いて
一度差し出した手を引いてしまった。
「何。気持ち悪い?」
感触やら温度やらを間違いだと思いたくて、
タツロウの声にも答えず、そのまま無視して部屋に戻ろうとしたら、後ろから
「あのさぁ」
とタツロウが少し大きめの声を出した。
答えるのが怖くて、ベランダの窓を閉めようとすると、開いている側の窓ではなく、閉まっている側の窓のガラスをすり抜けて、タツロウが入って来た
Baby, it's time-タツロウ-【小説】
いま
ソファで隣に座る彼は
透ける身体をよそに、
何度も、
好きだ、と私に云うのだった。
聴こえない振りが出来たのは1週間で、
「あんまり無視してると、ユウリちゃんがお風呂に入って頭を洗っているときに後ろに立つからね」
というなんだか空恐ろしい台詞が決め手の口説き文句となった。
最低である。
幽霊とのお付き合いだ。
霊感などまるでないはずの自分が、だ。
始めはもちろん、
「嗚呼、とうとう
Baby, it's time ープロローグー【小説】
何も云いたくないから
ただ上の空だ。
それを知らない彼は
心配そうに握った手に力を込めたり、
『どうしたの?』
ときいたりする。
年下って感じだなぁと思う私は
大概おばさんだな、と思う。
ちゃん付けで呼ばれる自分の名前を
不思議だと思ったり、
小学生のとき、一学年下に何故かモテて
何気なく告白されてしまっていた帰り道を思い出したり、
そういうことがぱったりなくなった昨今の渇き具合の自分に苦