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童話小説「ガルフの金魚日記41」

 ぷくは、冬さんに、春さんとのなれそめをききました。
「そんなこと知ってどうするんだよ。第一そんな昔のこと忘れたよ」
「そうですか、ざんねんです。それなら、春さんにきいてみます」ぷく。
「やめてくれよ。はずかしいだろ」

「ぶぶぶぶく。はずかしいことなんですか」
 ぷくは、びっくりしました。
「なにいってる。はずかしくはないけど、かっこう悪いだろ」
「かっこうわるい…、のですか」
 ますますわからなくなってきました。ぷく。

「わかったよ。話せばいいんだろ、話せば」
 なんだかヤケクソになっています。でも、ぷくはききたいです。

「大学に入って、新歓のとき、新歓っていうのは、新入生歓迎会のことだけど。このとき、いろんなクラブや同好会から入会の勧誘があるんだけど、しつこい勧誘があって、ぼくが断ろうと、もじもじしていたんだ。すると突然、女性が飛び込んできて、『この人はあたしたちのクラブに入ることになってるの。あんたたちじゃましないで』。そのまま手を引っ張られ、連れ去られたんだ」

「つれさられたって、どうにかされたんですか」ぷく。
「どうにもならないよ。校舎の影まで逃げてくると、手を放して、さようなら、気をつけるんだよって」
「それでおしまいですか」ぷく。

「ああ、そのときはそれでおしまい。でも、おどろいたことに彼女も新入生で、それも同じ学科。ふたりともビックリして、ふたり同時に、ブッて、噴き出したんだ」
「それからなかよしになったんですね」ぷく。

「そのときはそれで何もなかった。本当に知り合うようになったのはもっとあとのことなんだ。それから三年して卒業したら、島に帰るか、この町で就職するか迷っていたとき、また彼女が現れた」
「それまでなにもなくて、三年たって、ふたたびナゾの女があらわれ、そして、事件はおこった」ぷくぷく。

「推理ドラマじゃない。そんなに茶化すんだったら、もうしゃべらないぞ」
「すいません。もうなにもいいません。だまっていますから、おしえてください」ぷく。
「ぼくはね、子供のころ、お父さんのような船乗りになりたかったんだ。でも、お父さんは外国で死んじゃった。だからお母さんは猛反対して、『船乗りだけにはなるな、残されたものがどうなるか、家族をなくすのだけはやめておくれ』。そういって泣いたんだ。それからぼくは、自分が将来どうしたいのか、わからなくなり、ひとりでいることが多くなった。そんなときに君と出会ったんだ。だから君と友だちになりたくて、一生懸命のめんどうをみたよ」

「ありがとうございます。でも、そんなことがあったんですか。ちっともしりませんでした」ぷく。
「船乗りになることをあきらめて、じゃあ、何をすればいいのか、ぜんぜんわからなくて、お母さんは島に帰って来いというけど、島には仕事はないし。こっちにいてもやりたいこともない。教務課の前で求人票を、ただぼんやり見ていたんだ。すると彼女があらわれた」

「なるほど。なぞの女性があらわれ、恋におちる…」ぷく。
「お前、そんなに体をよじって、なにやってんの」
「えっ、恋がめばえた、そうじゃなかったのですか」

「いい仕事ないわねぇ」
 三年ぶりの声だった。
「ぼくは、こっくりとうなづき、島に帰ろうかどうしようか、つい、ぽろっと、グチをこぼしたんだ」
 ぷく…。

     明日の金魚日記へつづく

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