スタートアップ採用の"今"を、書籍『ファンベース』から考えてみた
昨年末にちょいバズした、こちらのツイート。
ぼやきに近いツイートでしたが、300以上のいいねを獲得。これをみるに、スタートアップ界隈の多くの人に共通する肌感覚なのかなと思いました。
実際には、採用に強い会社は他にもたくさんあると思いますが、「採用に強い」「優秀な人がどんどん入っている」という認知そのものが、次の採用へとつながっていく。採用力の格差がどんどん広がっていくような、そんな感覚を個人的に持っています。
今回は、その採用力の違いを生む要素について、佐藤尚之さんが提唱された『ファンベース』の視点から考察してみたいと思います。
わたしは現在、Gaudiyという創業4年目のスタートアップで、人事・広報まわりを担っています。ご多分にもれず、エンジニア、デザイナー、PdMなどのプロダクト人材の採用には苦戦していますが、それを乗り越えるためには「ファンベース採用」が必須だと考えています。
今回のnoteは、わたしと同じような課題感をもつスタートアップの経営者、人事・広報担当者、採用に関わるすべての方々に向けて書いたので、なにかしらのご参考になれば嬉しいです!
スタートアップ採用の成否を分けるもの
採用の最前線で奮闘している方々はすでにお気づきのことと思いますが、昨今の採用市場、特にプロダクト人材の採用では、転職顕在層へのアプローチだけでは優秀な方々にリーチすることができません。
※採用市場の現況については、以下のnoteに詳しいのでここでは割愛します。
近年のスタートアップへの資金流入により、以前よりも年収水準が高くなり、大企業からのスタートアップ転職も確実に増えてきてはいます。ですが同時に、優れたプロダクトと優れたチームを有するスタートアップの数も、格段に増えてきています。
そんな群雄割拠なスタートアップの採用市場では、常に人材不足です。プロダクト開発や事業開発を推進できる優秀な人材は、ただでさえ引く手あまたなのに、魅力的な企業がひしめく中で自社を選んでいただくのは、超絶難度の高いことだと思います。
そこで私が思うのは、転職を考え始めたときの「第一想起」をいかに取れるかが、スタートアップ採用の成否を分けるのではないか、ということ。
冒頭で挙げた採用に強い会社は、まさにこの「第一想起」が取れている会社だと思います。逆にいうと、転職サービスを使わずに自身のつながりの中で転職活動を完結する人も増えている状況においては、採用活動のスタートラインにも立てなくなってしまう、という危機感があります。
採用も「ファンベース」が重視される時代に
では、どうすれば転職を考え始めたときの「第一想起」が取れるのか。
そこで大事なのは、転職をまだ考えていない潜在層との接点づくり・ファンづくりの活動です。
Meety代表・中村さんのnoteがとてもわかりやすかったので図を拝借させていただくと、潜在的な採用候補者が自社の選考を受けるまでには、いくつかのステップがあります。
まずは業務に関する情報収集やSNSなどでの認知。次に社外の人とつながりたい、相談してみたいという接点。さらにもっと企業やチームのことを知ってみたいという興味関心、みたいな形でステップが深化していきます。
こうした日々の情報発信やミートアップ、カジュアル面談などさまざまな接点を通じて自社のファンになっていただく。つまり、転職潜在層の「ファンベース」をつくる活動が、採用の成否を分ける時代かなと思います。
書籍『ファンベース』の要点と、採用に活かしたい3つの視点
さて、ここからが本題です。
昨今の採用市場では、潜在層にアプローチするのが大事だとか、日々の情報発信が大事だということは、すでに耳タコじゃないかと思います。
事実、情報発信もスカウト活動も、まったく取り組んでいない企業を探す方がむしろ難しいと思います。ただ、その実践において「ファンベース」を意識している企業はまだまだ少ないように感じています。
私が好きな本のひとつに、佐藤尚之さんの「ファンベース」があります。
また読んだことのない人は、めちゃくちゃ良本なのでぜひ読んでいただきたいのですが、要旨としては「単発のプロモーション施策で終わらせず、消費者との継続的な接点をつくり、ファンになっていただくことが、長く売れ続けるために大事」みたいな話です。
私はこの本を読んで、まさに採用でも同じだ!!!と思いました。書籍では「ファンの入り口に立った人を、ファンにする」「ファンをコアファンにする」ためのアプローチ方法が、それぞれ具体的に紹介されているのですが、その中で以下3つの視点が採用に活かせると考えています。
それぞれ具体的に、私が考えたことをまとめてみます。
① 事業PRと採用PRの掛け合わせ
まずは、「単発のプロモーションで終わらせない」という視点。
スタートアップの採用で言えば、「プレスリリースを一発ドカンと出しただけではファンはできないし、中長期的な採用力につながらないよ」という話かなと思います。
特にシード〜シリーズA期のスタートアップは、そもそも大きな露出のタイミングも限られているはずです。資金調達やプロダクトリリースなど、世間の注目を浴びたタイミングで終わらせずに、そこからより自社の内側を知ることのできる動線設計と接点づくりが大切です。
採用に強い会社は、実はちゃんとこれを実践しています。例えば冒頭で挙げた10XさんやAutifyさん。どちらも昨年、資金調達を実施していましたが、プレスリリース後の一連の採用PRがすばらしいなと思いました。
簡単にご紹介すると、10Xさんは2021年7月にシリーズB調達を発表しましたが、その後、関連テーマでのOpen Office開催や各種イベント実施、ブログ発信など色々な接点づくりをされてました。(勝手に引用してすみませんw)
またAutifyさんは、2021年10月にシリーズA調達を発表。その裏側を伝えるウェビナーの開催やOpen Office、組織を伝えるブログ発信など、やはり継続接点をつくられてるなと感じました。(余談ですが、外部メディアでの情報の出し分けもうまいな〜と陰ながら拝見してました。NewsPicksの記事とかALL STAR SAAS FUNDさんのこの記事もすごくよかったです。)
またここから思うのは、ブログ発信やミートアップなどの地道な接点づくりは大事だけれど、より効果を出すには、やはり大きな波をつくり認知を獲得したあとでより自社のことを伝える発信をするのが良いのだろうなと。
というのも、スタートアップはシリアルなどの著名な起業家でない限り、基本的に知名度がありません。知らない会社がいくら発信していても、よほどコンテンツの質が高くない限りは、届きづらくなってしまうと思います。
だからこそ、スタートアップは「事業PRと採用PRの掛け合わせ」を意識する。事業PRで大きな波をつくることで「ファンの入り口」に立ってもらい、そこに続く採用PRで「ファン」になってもらう。この一連の流れが大事なのではないかと、ファンベースを読んで改めて感じました。
② 自社のファンである社員に自信を持ってもらう
次に、わたしが盲点だったのは「ファンはファンであることの自信がない」という指摘です。
一部引用させていただくと、こういうことらしいのです。
リファラルや発信などの採用活動を強化する前に、そもそも誘いたくなったり発信したくなるような組織づくりが大事だよね、というのはよくある話だと思います。わたしもそれは理解しており、それゆえにカルチャーづくりを大事にしてきましたが、それだけでは不十分なのだと気が付きました。
というのも、たとえ社員が自社に愛着を持っていて、会社のファンであってくれたとしても、他人に勧めるほどの「自信」がないケースもある。自分にとってはいい会社だけど、世間的にみたらどうなんだろう…? というのがファン自身もわからない。これは個人的にも思い当たる節がありました。
ではどうしたらファンは自信を持てるのか。そこで大事なのは「他のファンのオーガニックな言葉を読むこと」だそうです。なので、前提となる組織づくりは当たり前に取り組むとして、社外からどうみられてるか、どこが魅力に映るのか、といったファン(社員)が自信を持てるような情報提供が大事なのかなと感じています。
それはたとえば副業メンバーへのヒアリングや、カジュアル面談、エージェントさんや記者さんとの会話など何でもいいのですが、そうした人事・広報の人が持っているような外部接点の情報を、きちんと社内に伝達することを心がけたいと思っています。
③ 共感から熱狂へ、社外で共創するコアファンを増やす
さいごに、社外で共創するコアファンを増やせると、採用最強なのでは説です。
ファンベースの書籍では、ファンの支持を強くするための3つのアプローチとして、以下の3点が紹介されています。
採用に置き換えるならば、まずは会社の価値自体をアップして共感を得て、ファンとの接点構築で愛着を持ってもらい、誠実な対応で信頼を得ていく。そうするとファン(=潜在候補者)の支持を強くすることができます。
ここまではまぁそうだよね、という感じだと思うのですが、さらにファンの支持をより強くするための3つのアップグレードとして紹介されている観点を、個人的には採用にも取り入れたいなと思いました。
特に、共感から熱狂への変容においては「ファンを『身内』として扱い、共に価値を上げていく」ことだったり、愛着から無二への変容においては「コアファンと共創する」ことが大事だと書かれているのですが、これを採用においても実践できると強いなと思っています。
なぜかというと、知人や自身のコミュニティの範囲内で転職活動が完結するような人も増えている今、ファンと共創する場をつくり、コアファンを増やすことが採用にめちゃくちゃレバレッジが効くような気がしているのです。
というのも、コアファン化することで、まるで社員のように周囲の人にも推奨してくれたりしますし、発信した時も応援シェアしてくれたりします。(わたしもよく周りに転職検討者がいたときに、好きな会社をおすすめしてますw)
この「ファンと共創する」みたいなところは、最近のスタートアップだとYOUTRUSTさんが上手だなと感じます。また採用活動で具体的に例を出すなら、DevRel的な活動だったり、自社の解きたいイシューを外出しして社外の人と取り組んだり(プレイドさんがやってるようなイシュー採用もこの文脈かもしれません)、そういった社内と社外の垣根をなくす取り組みが、今後注力していくべき活動かなと思ったりしています。
ちなみに、ベイジさんも近しい動きがありそうで気になってます👀
ファンベース採用とDAO的なコミュニティづくりの推進
今回、お伝えしたかったのは以上です。
最後に一例として、Gaudiyでもファンベースを意識した採用活動に取り組んでいるので、少しだけご紹介します。
まずは情報発信の強化として、テックブログやメンバーのnoteなど、最低でも週1本は何かしらの発信をしています。そして接点づくりには、MeetyとYOUTRUSTをよく活用させていただいてます。
また、事業PRと採用PRの掛け合わせも、まだまだ少ししかできていませんが意識しています。例えば昨年は「TOKYO IDOL FESTIVAL(TIF)でのファンコミュニティサービスの提供」が最も大きなプレスリリースだったのですが、その流れで「プロダクト開発の裏側を伝えるインタビュー記事」や、そのときに取り組んだ「全員QAをテーマにしたテックブログ」を続けて出していきました。
まだまだ大きな成果に繋がったとは言えませんが、昨年末頃からエントリー数や応募数が確実に増えてきており、ファンベースが効いてきているような感覚があります。今年はさらに大きなニュースが色々仕込めそうなので、しっかりと事業と採用のPRを掛け合わせていきたいと思います。
また今後やっていきたいのは、DAO的なコミュニティづくりです。DAOとは「Decentralized Autonomous Organization(自律分散型組織)」という意味ですが、Gaudiyのバリューのひとつになっています。
DAOは、簡単にいうとビジョンに共感する人たちが、自律分散的に活動し、共に価値を作り上げるような組織のことをいいます。これは先ほどの3点目にあげた、コアファンを増やしていく動きとまさに相性がいいです。同じイシューを抱える社外の人も巻き込みながら課題解決を推進していったり、実現したいビジョンを共有する人たちとコミュニティをつくったり。会社という枠組みを超えて共創していく、みたいなことをやっていきたいです。
究極的には採用活動しなくても、そういうファンベースから自然とコアメンバーとしての社員になったり、会社という箱にこだわらずに、色んな関わり方で共創できるような組織をつくりたいなと思ってます。共通のビジョンに向かって、誰もが価値を創造していける組織をつくっていきたいです。
さいごに
昨年からぼんやり頭の中で考えていたことを、言語化してみました。人によっては新たな発見はなかったかもしれないですが、個人的には書籍のインプットをしたことで採用や広報活動における解像度も上がったし、やはり昨今の採用市場と照らし合わせても方向性は間違っていないなと感じました。
Gaudiyでは人事、広報まわりを担当していると冒頭で書きましたが、正しくは「コーポレートサクセス」という役割を担っています。そのミッションは社内外のファンづくりを通じて、会社を成長に導くことです。
(このnoteに思いの丈を書いたので、ご興味あれば読んでみてください。)
1年弱のぼっちコーポレートサクセスを経て、今月から2名のチームになりました👏👏 ですが、まだまだやりたいことはたくさんあり、一緒にGaudiyのファンをつくっていくメンバーを引き続き募集しています。
ファンベース採用に共感いただける方、ぜひお話ししたいです。MeetyでもYOUTRUSTでもTwitter(@hanahanayaman)でも、気軽にご連絡ください!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!