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誰かが祈ってくれるということ

前回の続きの話。

癌封じ寺に一緒に行ってくれた友人が、突然家を訪ねてきた。

少し照れくさそうに「ちょっと近くまで来たから、これ」と、紙袋を渡された。
中に入っていたのは、癌封じ寺のお札とお守りだった。

彼女は「近くまで行く用事があったから」と言っていたが、きっと片道1時間かかるそのお寺まで、これをわざわざ買いに行ってくれたのだと思う。
彼女の家から私の家は、反対方向に1時間。
ざっと3時間以上はかかる計算になる。

「私が渡したかったから」と告げて、すぐに帰っていった。
つい2週間前に一緒にお参りに行ったばかりなのに、彼女がそれを買ってきてくれた理由はすぐにわかった。

実は、がん経験者である彼女のお母さんから、「箸とお守りとお札のセットがあるからそれを買って枕の下に置いて寝るといい」と助言をもらっていたのだが、1000円のそのセットを前に、貧乏性の私が顔を出し、500円のお守りでいっか、とケチったのだった。

そしてその1週間後、私は今度は乳がん検診で引っかかることになる。
友人から「癌封じ寺に行った後からびっくりするくらい股関節の調子がいい」とタイミングよくLINEが来たので、その返信に「乳がん検診にひっかかった」と泣き顔の絵文字をつけてあまり重くならないように返信した。
彼女が家に突撃してきたのは、そのLINEをした翌日だった。

いつお寺に行ったのかはわからない。
聞いてもきっとはぐらかされるだろう。
きっと、そのためだけに車を走らせてくれたのだと思うけれど、きっと彼女は私が申し訳なさを感じることを知っているから、本当のことは言わないと思う。


誰かが自分のために祈ってくれることが、これほど自分の心を救うのだとは知らなかった。不安と恐怖とがぎゅうぎゅうに押しこまれた心を周りから温かい手で包んで「大丈夫」と言ってもらっている気がした。
私のことを大切に思って、行動して、祈ってくれる人が家族の他にもいることが、少し意外で、とても嬉しかった。

お札セットの中には箸も入っていた。
「その箸で、たくさん食べてね」とLINEがきた。
その箸で食べていると、不思議と癌が消えるような気がした。

祈りで癌が消えるなんて思っていない。
それでも、祈りは人を強くする。
なんとなく「大丈夫」と思えて、顔を上げて笑っていられる時間が増えることが、祈りの一番の効果だ。

再発しませんように。
もう心配かけることがありませんように。
彼女の病気も、進行しませんように。
今日も、明日も、そう祈る。



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