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【子宮頸がんの記録#20】抗がん剤治療が終わって

TC療法6クールが終わった。
3週間おき、4ヶ月間の治療だった。

治療が終わったのは冬。
本来であれば夏休みに行く予定だった沖縄へ、旅行に行くことにした。

行ったのは、ずっと泊まってみたかった星のや。
高いから、とずっと手が出せなかったのだけれど、いつ再発してもおかしくない今、「いつか」が来る確率が同年代の人より低いから、行きたいところに行くことにした。

オフシーズンの沖縄には初めて行ったが、暖冬のおかげでかなり過ごしやすい気候だった。
外にある温水プールで泳いで、プールサイドでシャンパンを飲んだ。
幸せを噛み締めた。

星のやにはいろいろなアクティビティがあり、夕方に琉球民謡を聴くことができる宵の座という時間があった。
一人、琉球の衣装を纏った女性が三線を持って歩いてくる。
本来であればプールに背を向けて集いの館を向いて歌うのだが、集いの館には開始時間になっても誰もおらず、プールサイドのソファに座っていた私たちの方を向いて歌ってくれることになった。

日も沈み、ライトアップされたプールに響く透き通った歌声。

心の琴線に触れる、とはこういうことかと思った。

少し肌寒い夕暮れ、ビブラートの効いたまっすぐな歌声が沁みた。

気がついたら泣いていた。

本当なら、夏に来るはずだった沖縄。
来れなくなった理由。
やっと終わった治療。
変わってしまった自分。
いつまでこの幸せな時間が続くのだろうという不安。

いろんな感情とこの半年のことが思い起こされて、涙が止まらなかった。

夏だったら、星のやはきっと選ばなかっただろう。
この民謡も聞けなかった。

そう思うと、人生は不思議だ。
がんになった「おかげ」とは絶対に言いたくないのだけれど、こうなったから経験できたこともある。


「泣きすぎでしょ」と夫に笑われるかなと横を見ると、夫も泣いていた。

心配かけたね、ごめん。
一緒に頑張ってくれて、ありがとう。
これからも一緒に生きていきたいよ。少しでも長く。

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