見出し画像

知らない人あてのお礼をされた話

 私は、個人事業主として校正の仕事をしている。基本的に仕事のやり取りはメールと、宅配便だ。すべて電子化されているところもあるとは思うが、少しばかり特殊な分野の仕事のせいか、紙のやり取りが続いている。

 依頼のメールを確認し、内容と期日が可能なものであれば、お引き受けする。実際の校正紙のやり取りは宅配便やメール便。
 ほとんどの仕事がこのやり取りなので、実際に取引先の担当者に会うことはない。一度も会ったことのない人、電話ですら話したこともない人と何年も仕事をしている、ということも少なくない。

 相手にとっての私は下請業者なので、仕事の内容にフィードバックをもらうことはほとんどない。
 はじめて仕事をする相手には、「過不足がありましたらお知らせください」と一文を添えることもあるが、基本的には「届きました」のメールが届けばその仕事は終わる。

 あるとき、「ありがとうございました! とても助かりました!」
とメールが届いたことがある。
 当然嬉しくなって、そのメールを読み進めると、「助かりました」の内容が具体的に書いてあった。

 私が受けた仕事ではなかった。

 おそらく、というか確実に他の校正者の仕事と間違われたのだと思う。かといって、それを指摘するメールを送るわけにもいかない。
 もやっとする気持ちと、その仕事を受けた校正者に申し訳ない気持ちが生まれたが、どうしようもない。
 外注先に対する認識がその程度なのだな、とわかったので、その取引先からの仕事には気をつけよう、と呑み込んだ。逆のことが起こってしまうかもしれない。

 結局、その取引先は他の担当者の仕事でも、ごたごたが続いたので、今ではおつき合いをやめてしまった。
 個人事業主としては痛手であるし、仕事を選べる身分でないことは充分に承知しているが、いざというときに守ってもらえる立場でもない。自衛するにこしたことはない。

 褒められたり、感謝されたりすることはほとんどないけれど、やっぱり「ありがとう」「助かりました」と言われると嬉しい。

 それを伝えることのできる立場の方は、ぜひ積極的に伝えてほしい。もちろん、それは正しい相手に。お願いします。


これまでに、頭の中に浮かんでいたさまざまなテーマを文字に起こしていきます。お心にとまることがあれば幸いです。