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私の大事なお守り

ポケットに手を突っ込んだとき、嫌な予感がした。その嫌な予感は的中していた。アパートの鍵につけていたお守りがない。

その日は19時半過ぎまで大学にいて、アパートに着いたのは20時前だった。お尻のポケットに入れていた鍵を取り出そうとしたとき、大事なお守りがないことに気づいた。

「大丈夫お守りがない」「大丈夫じゃないかも」すぐに母にLINEをした。

私の大事なお守りというのは、「大丈夫」と書いてあるお守りだ。母に買ってもらったもので、母と姉も持っている。いつも持ち歩いていたいと思って、アパートの鍵につけたのだ。

そんな大事なお守りがなくて、とてもとても不安になった。どうしよう。どうしよう。
とりあえず、夜ごはんを食べた。お腹が空いていた。でもどうしても落ち着かなくて、早く食べて大学に戻った。さっきまでいた場所に落とした可能性が高いと思ったからだ。一刻も早く見つけるために、そこが閉まってしまう前に行かなきゃと思った。

大学までの道も全く同じ道を通った。道中で落としている可能性もあると思ったからだ。でも見つからず、さっきまでいた講堂に行った。まだ電気がついていた。さっき座っていたところ付近を探した。ない、ない。きっとここだろうと思っていたのに。その前に行ったトイレも見てみた。トイレに行ったとき、反対側のポケットに入れていたマスクが落ちそうになったことを思い出したからだ。それでも、ない。
その前の授業の教室だろうかと思って行ってみたものの、教室には鍵がかかっていた。こんな時間だもん、そりゃそうだ。空きコマでいた図書館の可能性もあると思ったが、入館に必要な学生証を持っていなかったから帰るしかなかった。時間も時間だ。不安な気持ちのまま、また同じ道を帰った。

あると思ったところになかった。
涙が流れた。不安で不安で、どうしようもなかった。
なんで??
ごめんなさい。

「大丈夫だぁ!」と母が励ましてくれた。ちょっとだけ元気が出た。でも私の周りには、不安な気持ちが取り憑いていた。

次の日。
早めに大学に行き、事務室の落とし物が置いてあるところに行ってみた。もしかしたら誰かが拾ってくれたかもしれないと期待した。けれど、なかった。次は図書館。昨日座っていたところに一目散に向かった。そしたら、そこには先客が。突っ込んでいくところだった、危ない。
次の授業に向かう前、昨日の夜に見られなかった教室が空いていたので、見てみた。昨日座っていた後ろから3番目。ない。
次の授業の教室も、昨日使ったところだった。昨日座っていた席には人がいた。怪しまれない程度に見たけれど、なさそうだった。

あとはもう事務室の落とし物をこまめにチェックするしかないか。そう思った。お昼休みに、もう一度見に行ってみた。ない。よく見ると、今日届いた落とし物は事務室のカウンターにあるとの説明書きがあった。そっちの可能性もあるか。カウンターに向かった。1番近くにいた事務員さんが来てくれた。お守りの落とし物がなかったか尋ねると、書類をチェックしてくれた。こっちからも書類が見えたが、お守りの落とし物はなさそうだった。すると事務員さんから、どんなお守りかと尋ねられた。そんなこと聞いてどうするんだろうと内心思いながら、色や大きさや「大丈夫」などの特徴を話した。
すると、事務員さんが通勤途中の道で「大丈夫」と書かれているお守りが落ちているのを見たらしい。お守りと聞いて思い出したそうだ。場所を聞くと、だいたいの場所を教えてくれた。絶対それだと思った。大丈夫と書いてあるお守りは珍しいし、何よりそこは昨日の私が通った道だった。そのうえ、まだ探していない道だった。
事務員さんにお礼を伝え、一目散にその場所へ向かった。「まだあるといいけど…。帰りによく見てみてください」と言ってくれたけれど、すぐに向かった。授業が始まるまで25分くらいあったし、そこは私の通学路ではないからだ。昨日の長めの空きコマで行ったチョコザップまでの道だった。

暑いお昼に日傘も差さず、スマホとトイレに行くために持っていたハンカチとポーチだけを持って、そこに向かった。急いで、とりあえずチョコザップまで行ってみた。しかし、見つけられなかった。
絶望だった。お守りを拾って警察に届けることはなさそうだし、警察に届けられていたとして、私はどこに行ってどうすればいいのかわからない。学内にないなら、もう私の元に戻ってくることはない。そう思いながら、大学に向かって歩いた。反対側の歩道を歩いていたけれど、もう1回チェックするために、さっきと同じ側の歩道に戻った。そして信号待ちをしていたその時。横断歩道を渡ったその先に、大丈夫お守りと同じ色の何かが落ちているように見えた。もしかして??!過度な期待をし過ぎずに、でも期待しながら、信号が変わるのを待った。そして、信号が青になってそこに近づいて行くと、、「!!!」
私はそこに駆け寄った。あった、あった!!!!!

間違いなく私のお守りだった。私の大事な大丈夫お守りが、私の元に帰ってきてくれた。すぐに再会の写真を撮って、母に送信した。「あった!!!!!」と言葉を添えて。

本当に嬉しかった。
そして、感謝の気持ちでいっぱいだった。
目撃情報を教えてくれた事務員さん、励ましてくれた母、帰ってきてくれたお守り。本当にありがとう。
嬉しい。大事なお守りが帰ってきてくれて。大丈夫だった。よかった。

大事なお守り。もちろん元から大事だったんだけれど、失くしてからその偉大さに気づいた。こんなにも心の支えになってくれていたんだ。お守りがなくなるだけで、こんなに不安になるとは思わなかった。こんな必死になって探し物をしたことなんて、これまでにあっただろうか。

これからもっと大事にする。そう誓った出来事だった。



p.s. ちなみにトイレに行ったら、授業時間ギリギリになりました。笑


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