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親愛なるチャーリー・ワッツ様

 チャーリー・ワッツが亡くなった。享年80。一報をニュースで知ってから数日が経った今も、精神的なダメージは大きいままだ。というか、想像以上にショックを受けている自分にも驚いている。チャーリー・ワッツの存在がいかに大きかったのか、亡くなったことで改めて発見した気分である。

 このあたり、ピンとこない人も多いかもしれない。ローリング・ストーンズといえば、ボーカルのミック・ジャガーとギターのキース・リチャーズのインパクトが圧倒的に大きい。ドラマーであるチャーリー・ワッツなんて、熱心なファン以外は「痩せこけた地味な爺さん」くらいのイメージしかなかったのではないか。あるいは存在を知っている人すらレアだったのかも。

 しかし、ローリング・ストーンズというバンドはリズムとグルーヴで勝負するタイプのバンドだった。その最大の強みである“うねり”を作っていたのがキース・リチャーズとチャーリー・ワッツ。申し訳ないけどベースのビル・ワイマンはリズム面の貢献度がほぼゼロだったから、いなくなっても影響はほとんどなかった。そういう意味でも今回はビル・ワイマン脱退とは意味合いが明確に違う。

 レッド・ツェッペリンは、ドラマーのジョン・ボーナムが亡くなったことで解散の道を選んだ。ストーンズの結成は1962年。来年には60周年を迎える音楽史に残る長寿バンドだが、正直、解散もやむなしかと個人的には思う。

 9月から始まるストーンズの全米ツアーは、病気療養中のチャーリー・ワッツの代役としてスティーブ・ジョーダンがステージに経つことがすでに発表されていた。キースと組んだエクスペンシブ・ワイノーズでのプレイは文句なしに最高だったから、「すげぇ! めちゃ観てぇ!」と私は小躍りして喜んだくらいだ。そこまでチャーリー・ワッツの病が深刻だなんて想像していなかったのである。

 ファンの中には「代役を立ててツアーするくらいだから、チャーリーが亡くなっても残されたメンバーはストーンズを続けるのではないか」と予想する声もある。だが、それは微妙なところだと思う。とりあえずアメリカ公演はスティーブ・ジョーダンで乗り切るだろうが、それが一段落したら店を畳むという可能性も十分に考えられる。それくらいチャーリー・ワッツはストーンズの心臓部分を担っていた。

 世界に何百万、何千万というストヲタと同様に、私もストーンズが醸し出す唯一無二のグルーヴに昔から心酔していた。若い頃はバンドをやっていたこともあり、キース・リチャーズの演奏(特にリズム面)をアホみたいに研究しまくったのだが、そうするとどうしたってチャーリー・ワッツのドラミングに話は行きついてしまう。あのスネアとハイハットばかり叩くシンプル極まりない演奏。フロアタムもシンバルもほとんど登場しない淡泊さ。テクニカルとは到底言い難いが、そこが抜群にカッコよかった。

 そんな私が考えるチャーリー・ワッツのベスト3プレイは以下の通り。

1・オルタモントの悲劇における『アンダー・マイ・サム』(1969)

 ヤバいっしょ、このグルーヴ。ダルさ全開。横ノリの極地。不健康にもほどがある演奏。古臭い価値観かもしれないけど、ロックが不良の音楽だということがビンビン伝わってくる。コンビニで流れているようなJ-POPでは味わえないようなスリル。ビル・ワイマン否定派の私ですが、これはいいベース弾いてますね。

2・『ラブ・ユー・ライブ』の『クラッキン・アップ』(1977)

 これも最高! オリジナルはボ・ディドリーで、ストーンズは60年代から演奏していたんだけど、やっぱこのテイクがズバ抜けてカッコいい。リラックスした全体の雰囲気もさることながら、ブラッシングを多用したロン・ウッドのリズミカルなギターが肝かも。それを支えるチャーリー・ワッツのドラムが最重要なのは言うまでもなく。

3・ファーストの『ルート66』

 ザ・疾走感。前のめりの突進力。特にギターソロに入る直前のブチ上がり方は血気盛んなヤンキーみたい。リズムキープとか二の次だもんな。マジで初期のストーンズは愚連隊というかチンピラ集団だったと思う。『仁義なき戦い』の2作目(広島死闘篇)にも通じる美学。あるいは『狂い咲きサンダーロード』のジンさん。

 やっぱり音楽って突き詰めていくとリズムの面白さがすべて……とは言わないまでも、ものすごく重要になってくることは間違いない。つんく♂先生が「リズム! リズム!」ってクドいくらい愛弟子たちに説くのも当然な気がする。私の場合、ストーンズがリズムの面白さや重要さを教えてくれた。レゲエにハマっていったのも多分にストーンズの影響が大きいと思う。チャーリー・ワッツがいなくなった今、心にぽっかり穴が空いた自分はまるで『ドラえもん』6巻最後ののび太みたいな気分でいる。

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