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恰好つけた、コンポート。


僕は、不器用だ。
内面ではなく、手先のほう。


おかげで料理ができない。
最も苦手と言っていい。
だからいつも、君に任せっきりだ。


カップラーメンは作れる。
お湯を沸かすだけだから。


野菜炒めも、辛うじてできる。
なぜならカットされた野菜を使えばいい。
でも大体、焦げる。


僕は包丁を使うのが本当に下手で、
もっと致命的なのは、
料理で大事な ”加減” なるものが、
本当にわからないことだ。






だから、動揺した。


『誕生日プレゼント。
何も要らないから、ごはん作って』


という君の言葉に。


『え、僕が?
なんで苦手って知ってて、
それをチョイスするの?』


と即答してしまったことで、
君は一週間、拗ねている。
















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思えば、誕生日はこうしてほしいと
言われたことなど一度もなかった。
僕から聞くことはあっても、
『なんでも嬉しいよ』と、
いつも笑って答える。


レパートリーの少ない僕は、
大体いつも君が愛してやまない絵本を
プレゼントするのだけど、
そのどれも、嬉しそうに受け取って、
大事にしてくれる。


料理がすこぶる苦手なのを、
もちろん君は知っている。
だからきっと、してほしいことを
素直に申し出たのだと思い至るのに、
一週間拗ねられてようやく氣づいた。


きっと、作ってほしい理由が、
あったのだろう。


苦手なことをするのは嫌だけど、
作るしかないのはわかっている。


でもいきなり食事を作るのは、
申し訳ないのだけれどハードルが高い。


本当に作るにしても、
誕生日までに練習は必須だ。


ご機嫌斜めの君が好きなものを使って
僕が作れそうなものはあるだろうかと、
レシピ数333万件を誇る有名サイトで、
”桃” と入力する。


















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『ただいまー。
…何やってるの?』



『え、これはその…コンポート…
に、なるはずだったもの、です』



『…みたいだね』



『や、失敗するかもと思ったから、
桃は多めに買ってあって冷…』



『食べる』



冷蔵庫にあるから食べていいよ、
という僕の氣の利いた言葉を
最後まで聞かずに遮った君は、
一番食べてほしくない、
見栄えの悪いところを
つまんで頬張る。



何か言いたそうな、
歪んだ顔をこちらに向けて、
食べてみなよーと言われ、
僕も食べる。


苦くて、変に甘い。
思わずむせて咳込む。


けれど次の瞬間そこにあったのは、
君の爆笑。


火が強すぎたらしく、
あれよあれよという間に焦げた。
僕は料理で大事な ”加減” なるものが、
本当にわからない。


恰好つけてコンポートなんか選ばずに、
不格好でもなんとかカットした桃に、
ヨーグルトでもかけておけばよかった。


君が爆笑するこの失敗が、
君の笑顔を取り戻したなら。


桃には申し訳ないのだけれど、
焦げてくれてありがとう。
いい仕事したな。





『これはやめにして、
新しいの剥いてよ』



『包丁はもういい…』



『えーそこはがんばろうよー』



笑いながら桃を出してくる君。



その手捌きに感心するふりをして、
久しぶりに見たその笑顔に図らずも見惚れ、
なり損ないのコンポートから、
無事そうな部分をつまんで頬張り、



僕はもう一つ、咳をする。







flag *** hana



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