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なぜ七丈小屋の利用者が増加したか

毎日「最大1時間」と決めてnoteを書いていますが、「最大1時間」なので5分で終わってしまう日もあります。まだまだ書き慣れていないので記事が仕上がるのに時間がかかりますが、しっかり書き込めるようになりたいと思います。


さて、2017年より運営を引き継いだ甲斐駒ヶ岳七丈小屋。

以前の投稿で書いた通り、標高差2200mある日本三大急登「黒戸尾根」の七合目、登山口から標高差にして1600mも登ったところにあります。標準的なコースタイムで6時間〜7時間。1816年に山岳信仰の山として開山されているいわゆる修験の山。小屋に着くまででも岩場、鎖場などの難所がいくつかあります。

黒戸尾根五合目からはハシゴ等の連続

しかも営業形態は「通年営業」。
冬の間は-20℃近くなる寒さに加え、それなりに雪も積もります。冬の間の業務の多くは、この雪との闘いと言っても過言ではありません。

2017年2月後半。この冬は特に雪が多かった。いまはこんなに積もることはない。

まずは引き継ぐ前の状況を振り返りたいと思います。

○以前の七丈小屋

私が引き継ぐ前の20年間は、管理人さんがひとりで切り盛りする小屋でした。堅物で屈強。この方でなければ、七丈小屋は運営できなかったと思います。いまから四半世紀前は、いまよりもっと寒く、もっと雪がありました。年々冬の勢いが衰えていることは、山に登り続けていると感じることです。

2008年2月。この頃はこれぐらいの雪が普通だった。
最近の冬は、山頂標識がこんなに低くなることもない。

当時は小屋への直通の連絡手段はありませんでした。
つまり予約不可。
管理人さんがいるかどうかは行ってみなければわかりませんでした。一応管理人さんが不在でも泊まれるようになっていましたが。

ただ管理人さんがいたとしても、16時までに着かないと食事が出てこないとか、16時までに着いても状況によっては食事が出ないとか、管理人さんが用事で不在だとか、つまりどういった形で泊まれるか、どういうサービスを受けられるかどうかは、行ってみなければ分からない小屋でした。

2008年当時の七丈小屋

しかし最後の3年間を除いて素晴らしいお食事を出してくださったり、怖い人という印象が強かったけど、登山者には愛のある厳しさだったりと、独特の雰囲気がある山小屋でした。

○プロモーションの視点

秘密のヴェールに包まれていた七丈小屋。
しかしそれを引き継いで運営をする以上、まずはそのヴェールを剥がさなければなりません(笑)

七丈小屋は設備面においてかなり限りがあり、提供できるサービスにも限界がありました。なので、「この山小屋に泊まりに来てください」というプロモーションでは、いわゆる山小屋のサービスの土俵に乗ることになるので、全く不利であると思いました。

もちろん山の世界では無名ではない(自分で言うなw)花谷が始めたという話題性が大きかったことは否定しません。その部分は大いに活用しましたし。そしてありがたいことに、いまでも「花谷さんいらっしゃいますか」と聞いてくださる登山者は多いです。

しかしそれでは属人化し過ぎているし、本来の登山の目的からは離れてしまいます。そこで考えたのが「甲斐駒ヶ岳推し」「黒戸尾根ルート推し」のプロモーションでした。

北杜市高根町から望む甲斐駒ヶ岳。
山小屋の魅力ではなく、この山の魅力を発信することに注力した。

どういうことかというと、この山やルートの魅力を発信することで、まずは山そのものへの関心を持ってもらいたいと思ったのです。
実際に黒戸尾根ルートは自然が豊かで歴史のある素晴らしいルートなのですが、どちらかというと「キツイ」「厳しい」「危険」みたいな3K的な存在としての地位を確立していました。

この3Kの要素は、このルートの魅力の要素だと感じているのであえて外せません。むしろそういった困難を受け入れる登山者に支持されたいと思いました。
そして実はルートとしてとても多様で、里山・山岳信仰・アルピニズムを感じられる素晴らしいものでありましたが、これまでの発信不足からそういった魅力はほとんど伝わっていないと感じていました。

黒戸尾根八合目付近から八ヶ岳方面を望む。
見事な雲海。
黒戸尾根頂上付近に生息する雷鳥
黒戸尾根九合目烏帽子岩二本剣
今も続く駒ヶ嶽神社登拝
黒戸尾根を開山した行者さんを祀る石碑

まずはその魅力を、具体的に丁寧に発信したいと思いました。
そして登山者としては一度は訪れてみたい憧れのルート、といった印象をもってもらいたいと考えたのです。

冒頭に書いた通り、七丈小屋までは登山口からの標高差が1600m、標準的なコースタイムは6時間〜7時間。七丈小屋はルート上唯一の山小屋。黒戸尾根が人気になればなるほど、小屋の利用者は必然的に増えました。

○手始めに行い、いまも継続していること

もともと多少は発信力はあったので、小屋のホームページやSNSなどを通じて「ほぼ毎日」のように情報を発信し続けることが大切だと思いました。

発信はオウンドメディアだけでなく、山岳メディアも積極的に活用しました。「山と溪谷」や「PEAKS」などの専門誌には毎年特集を組んでいただいて、「甲斐駒ヶ岳」や「黒戸尾根」ができるだけ大きく、そして継続的に取り上げていただくよう働きかけました。

初期の頃はこのようなリアルイベントにも積極的に参加していました。

いまは情報発信はすべてインスタグラムに集約していますが、基本的に毎朝更新。主に山のコンディションを発信して、安全登山への啓発を続けています。

最近では人気YouTuberさんが発信してくださることで注目してもらっています。

YouTuberさんの発信は大変ありがたく、これからもぜひよろしくお願いします(笑)

結論としてはとにかく発信が大切!!

それもオウンドメディアで費用をかけず、地道にやり続けることが大切だと思います。大きな山小屋であればもっと大々的に何かができそうですが、七丈小屋のような弱小の小屋は、とにかく地道にやり続けるしかないと思います。

しかしいくら魅力を発信しても、どうしても解決しなければならない問題がありました。それが登山口へのアクセスです。
甲斐駒ヶ岳黒戸尾根ルートの主要登山口である尾白川渓谷までの公共交通はタクシーしかありませんでした。最寄りの駅から登山口までタクシー代が4000円ほど。何人かで行くならいいですが、ひとりで来るのはハードルが高い金額です。これを解決すれば、アクセスのハードルがかなり下がると考えました。

次回の投稿は、北杜市で取り組んでいる登山者向けの二次交通について書きたいと思います。

よろしければサポートもよろしくお願いします。いただいたサポートは、登山道の保全やヒマラヤキャンプといった、登山文化を次世代に引き継いでいく活動費として使わせていただきます!!