夕暮れと君

ねばついた秋の夕暮れ。君はいつもと同じ黄色いチャック・テイラーを履いて縁石の上を両腕を上げてバランスを取りながらこう訊くのだ。

「最近どう?」

ぼくたちはもうほとんど毎日同じ会話をする。右側から差し込む夕日は建物の間をすり抜けて君の横顔をなぞったり、黒く塗りつぶしたりした。

「最近も何もないよ。昨日と同じ今日を生きた」

昨日と同じ返事。君はそんなぼくをちらっといちど見ただけで、また前を向いて両腕でバランスを取るのだ。

ぼくらの髪を黄金に染めていた黄昏はいつしか暗闇へと呑まれ始めた。街灯が点き、星が顔を出してきた。君はとんっと、(本当にそれは軽い音がした)縁石から飛び降りた。途端に低くなる君の身長はなんだか子供に戻ってしまったような気持ちにさせる。あどけなさが残る顔が、黄色のチャック・テイラーが。

「私と会えて君は変わった?」

君にはわからないと思うけれど、ぼくは十分変わった。君と会ってからは変わってないけど。

「うん」

ぼくたちは夕闇に溶けて、また明日を迎える。

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