高田ハン

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【長編】夢女

 僕が覚えている限りの話をしよう。あの女と会ったのはまだ寒い春のことだった。風が強く、安いアパートの窓は立て付けが悪く、がたがたと音を立てる。深夜2:00。なかなか寝付けない。そんな夜の話だ。 第1章 初夢 どこを見渡しても一点の曇りさえない真白な空間。上も下も、右も左も通用しないような境界の存在しない世界に僕は横たわっていた。真綿の中のような心地よさに僕は動けずにいた。指先の一つでさえ。しかし、心持ちとしては不思議とどこまでも落ち着いている。見たこともない、動けない状態

    • 【ネタバレ含】ダンサーインザダークという完璧な地獄

      ダンサーインザダーク。それは完璧な地獄。 一度見たら4日は寝込むとか、気分が落ち込むとか後味悪いだの胸糞、鬱、バッドエンド、二度と見たくないなどと言われたい放題の紛うことなき傑作ですが、ぼくにとってそのラストがあまりにも美しすぎたので、感動のあまり手当たり次第友人に、もはや当たり散らかすといった表現が合うほどの乱雑な感想を深夜2時近くに送りつけたりするなどしました。 どうしてそこまで取り乱すほどの興奮をこの映画は与えたのか。それはダンサーインザダークの完璧な地獄にあります

      • 【掌編】夕暮れと君

        ねばついた秋の夕暮れ。君はいつもと同じ黄色いチャック・テイラーを履いて縁石の上を両腕を上げてバランスを取りながらこう訊くのだ。 「最近どう?」 ぼくたちはもうほとんど毎日同じ会話をする。右側から差し込む夕日は建物の間をすり抜けて君の横顔をなぞったり、黒く塗りつぶしたりした。 「最近も何もないよ。昨日と同じ今日を生きた」 昨日と同じ返事。君はそんなぼくをちらっといちど見ただけで、また前を向いて両腕でバランスを取るのだ。 ぼくらの髪を黄金に染めていた黄昏はいつしか暗闇へ

        • 【短編】ソフトクリーム・ラヴァーズ

          コーンの先っちょに溶けたソフトクリームが溜まっている。私の体温でジワリジワリとゆっくりと溶けていくそれは、自分の手だけでは止められないチキュウオンダンカーとかカンキョウハカイーと呼ばれるものの縮図のように思えた。 すでに湿り始めたコーンの内側できっと溶けたソフトクリームが滴って溜まっていることだろう。ああ、なんて自分は非力なんだ。私は目の前のソフトクリームさえ救えないというのか。これでは地球なんて到底救えそうもない。 どうか許してくれ、せめてこの天寿を捧げるから私が生きてい

        【長編】夢女

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          【掌編】変わらない夜

          「久しぶりじゃん!」 いつも変わらないその笑顔を向けてくれるのは咲だった。 新宿三丁目にある要通から一本裏手に回ったところにある居酒屋「どん底」。雑多な飲み屋街から一つ裏に回っただけでここまで陰鬱な、それこそ店のネーミングも相まって、まるで何かの巣窟のようなその店構えのダイニングバーには2020年を思い返すにはあまりにも人でごった返していた。 創業から70年近くたった今でも人気は衰えることなく、靴底の泥とタバコの煙で黒く変色した店内の床板は、溢れかえる常連客を軋ませなが

          【掌編】変わらない夜