ルッキズムとかいう呪い

私はずっと醜形恐怖症だった。今も少しはマシになったが、治ってはいないと思う。小学6年生くらいの時に、ふと鏡を見て自分の鼻が周りより大きい気がした。目も一重で小さいし、まつ毛も短くて、髪の毛もくせっ毛でボサボサだった。クラスで男の子に人気があって可愛いあの子は鼻がすっとしており、目も大きく、髪もサラサラだった。なぜ私はこんなに可愛くないのか、私もあの子のようになりたかった。

中学に入り、醜形恐怖症がさらに悪化し、ずっとマスクをするようになった。夏の暑い日でも外すことはなかった。できるだけ誰にも顔を見られたくなかった。「なぜずっとマスクしているの?」と聞かれても「なんとなく、落ち着くから」と誤魔化すしかなかった。特に笑うと広がる鼻を見られるのがとても怖かった。給食の時間に辛うじて外していたくらいだ。その固執の仕方があまりに病的で、皆に心配されていた。

高校に入り、別に醜形恐怖症が治ったわけではないが、自分の異常さに気づいてマスクをするのはやめた。でも、どんなにバレバレで先生に怒られても、アイプチをやめることはできなかった。アイプチのために早起きし、作った二重の出来に一喜一憂する朝が大嫌いだった。元々可愛いあの子は、私が二重作りに格闘している時間を、睡眠時間にあてたり他の努力に使っているんだと思うとやるせなかった。

特に二重が上手く出来なかった日は、人と目を合わせるのが怖くて仕方なかった。「ああ、この人にも自分がブスだと思われているんだろうな」と思ったら、もう誰とも話したくなくなった。しかも、思春期で太りやすい時期だったため、152cmで60kg近くあり、尚更自信を持てなかった。かわいくなりたいのに止まらない食欲でどんどん太ってしまう現実とのギャップも辛かった。

高校時代にクラスの男子に「朝青龍」と呼ばれいじられていたし、Twitterでしか絡んでいなかった一個下の後輩と学校の広場みたいなところで会う約束をしたらその後「はむちゃん普通にブスだった」とか言われてたらしい。なんかとにかくブス扱いされてた記憶がある。やっぱり私ってデブスなんだって嫌でも気付かされるというか。「クラスの可愛いあの子」側ではなかったのは間違いない。クラスの可愛いあの子は陽キャで人気者の男の子と付き合って大切にされて、SNSに小樽デートの写真とか学祭の写真とかたくさん載せてたのに、私はTwitterにこの世に対して呪詛を綴り、学祭休んだりしてたな。学祭キャンセル界隈。どこまでも可愛くない女だった。

体重は大学に入り自然に落ちたが、顔の悩みは尽きず、その苦しみは19歳くらいまで続いた。大学の友達が「二重の整形手術をする」と聞いて、整形という手があったかと目から鱗だった。自分の顔を嫌いになってから漠然と整形したいとは思っていたが、ついに行動を起こした。20歳の時に二重手術をし、去年の3月に小鼻縮小の整形手術もした。

たかが目の上の線にテンションが左右されるあの憂鬱な朝からも解放され、自分の鼻も少しは好きになれた。整形とダイエットの甲斐もあって、可愛い芸能人に似てるって言っていただける機会が増えた。だいぶ垢抜けたと思う。今の私だったらブスとか言ってきた人全員、見返してやれるかな。

しかし、私はまだルッキズムの呪いから解放されていない。今も人と目を合わせるのは怖い。他人に愛されるためには、まず自分のことを愛さなければならないと思ったから整形をした。浅はかだと思われるかもしれないが、自分の嫌いな部分を変えたら好きになれると思った。

結局、過去のブスで卑屈な自分が嫌いだから、今の自分を愛し切れないのだろう。せっかく昔より可愛くなれたはずなのに、ずっと卑屈なままだ。昔の自分を「君は可愛いよ。大丈夫だよ」と本当は抱きしめてあげたいのに、「過去のお前のせいで自信が持てないんだ、デブスのお前なんかどこか行ってしまえ」と突き放してしまうのだ。

こんな苦しみを生む外見至上主義なこの世界が本当は大嫌いだ。恨んですらいる。しかし、結局、可愛い子が優しくされて得をする。顔が可愛くないと中身なんて見てもらうことすら叶わない。玄関が汚い家より、玄関が綺麗な家に入りたい。「人は見た目じゃない」なんて綺麗事に過ぎない。理不尽だとは思うが、どうやったって世界は変わらないのだから自分が変わるしかない。

この呪いを解くには、自分のことを好きになるしか方法はないと思う。結局、自分のことを愛せないと、誰かに愛してもらえなくて、いくら容姿に磨きをかけたところで何も満たされない。キスで毒りんごの呪いを解放してくれる王子様なんて待っているだけじゃ現れないし、「可愛い」だけじゃ好きになってもらえない。

整形した後の顔にもコンプレックスはいっぱいあるが、少しでも変わろうと思って行動を起こした自分のことは少し好きになれた。こうやって一歩ずつ、自分を好きだと思える理由をつくるために努力していけば、いつか呪いが解ける日が来るのかな。そうやって信じていたい。

昔の自分からもコンプレックスからも解放されて、自分のこともこの世界のことも愛したい。本当はもっとポジティブでキラキラしている可愛い女の子になりたい。ありのままを愛してもらう、なんてそんなの御伽噺だもん。

あー、可愛くなりたい。


朝青龍だった頃

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