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嫌いな街、新宿のカラオケのフロントに立つホスト

新宿は嫌いだ。仲の良い友達に誘われても、新宿だと何か気が向かないし、新宿で会ってしまうと、煌々と輝くネオンの光の中でさえあの子もかわいさ3割減である。
 
新宿ではよく喫茶店に入る。そこで働く店員は、全員が全員見事に不愛想だ。恐らく、人が多すぎて、客のことを一人ひとり血が通った人として見ることが難しいのだと思う。僕も新宿の店で働いていたらそうなってしまうと思う。客のことを血が通っていない人形、もしくは木の棒だと錯覚し、そのうち自分もその人形の前に置いてあるテーブルに水や珈琲、時々ピラフを置きに行くだけのロボットになってしまう。こういう様子を見て、いつも悲しい気持ちになる。これが、僕が新宿を嫌いな理由だ。

 
歌舞伎町に「カラオケランド」というカラオケがある。なぜかタバコ屋が併設されていて、フロントに立っている店員もホスト風の見た目という、よくわからないお店だ。暇なホストが手伝いに来るようなシステムでもあるのだろうか。

その日僕たちは居酒屋で何時間も飲んだ後、コンビニでお酒を買い込んでカラオケランドに向かい、ホストに案内された部屋で終電まで歌った。ふらふらでフロントに伝票を持っていき、会計をしようと財布を開くと、ホストが「は?先払いでもらってますけど」と言ってきた。入るときに会計を済ませていたことを忘れてしまっており、既に赤い顔をしながらも赤面したのだが、僕はこのホストの言葉を聞いて嬉しくなった。

深夜のカラオケなど、酔客ばかりである。先に会計したことを忘れてしまう客は少なくないはずだ。だが、ホストの対応は、新宿の喫茶店のロボットとは違った。「は?」には、人の血が通った、「なんだこいつマジかよ」という困惑が感じられたのだ。

考えてみれば、ホストというのはロボットにはできない仕事かもしれない。人が人を人として見ることが難しい新宿、その真ん中に立つカラオケランドで、僕は人間に出会った。カラオケランドにあった一筋の光、それを辿っていった先に、僕が好きになれる、未だ知らない新宿の姿があるのかもしれないと思った。

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