西洋の沈没
西洋諸国においてAIに対する規制の力学が強そうなのを見ると、来るべきAI時代において、西洋は没落(シュペングラー)を通り越して沈没しそうな気配がある。
なんというか、人権意識や主権感覚の強さが、ポストヒューマニズム時代への適応を妨げているようだ。
アジアは人権意識が低いとかいってネガティブに評価されるけど、これは、人間は世界や自然をコントロールできないという謙虚さのあらわれでもあると思う。
人権意識が低いんじゃなくて、人間にできることを過大評価していないだけだと。
そういえば、最近聴いたラジオで、COTENの深井龍之介さんが、「西洋において理性は信仰に由来している」といった意味のことを言っていて、確かにそうだよなと思った。
西洋的精神性においては、理性を正しく働かせれば真理に到達するはずという根源的信憑がある(これに支えられて彼らの精神的活動は成り立っている)。
でも、東洋人は、とうの昔に「そんなの無理」と悟っている。
理性のような言語的明証性ではなくて、非言語の間身体的領域「込みで」、真理というものは了解される必要がある。深井さんは主張する。
非言語も知性である。
ということを、東洋では自然と素直に早いうちから「体得」しているわけであるが、西洋人は、アカデミックなロゴスを運用して別ルートから死ぬほど時間をかけて真理に到達しようとする。
それでいまさら「おばあちゃんの知恵」みたいなのを科学的に裏づけようとしてみたり、禅や片付けにはこんな効果があるんだと大げさにエビデンスを提出してみたりするわけだ。
「非言語の知性」についてちょっと深掘りしてみる。
非言語の世界は、いちいち可視化できないし、それこそ言語化もできない。十分なエビデンスにもならない。
でも、そういう「目には見えない、しかし真理をしっかり構成していると考えてよいもの」への敬意が、理性の急進主義(エビデンス!エビデンス!)への歯止めになれる。
あるいは、とりあえず暴走はさせるが、裏でひっそり非科学的にテキトーにやり過ごすテクニックを発達させる知性もある。日本なんか好例だ。
直近のコロナ禍を引き合いに出せば、
専門家の言うことに従ってマスク大事ー!とここかしこで叫びながら、換気の良い、しかし人目はある屋外ではマスクを着けている。その一方で、換気に劣り、感染リスクが高いとされる屋内のカフェでは、黙食・尾身食いなんのその、マスク脱ぎ捨ておしゃべりに花を咲かせる。そしてその話題が「夫が顎マスクで汚いのよぉ」だったりする。
明らかな矛盾ではあるが、これが一般庶民の無自覚なしたたかさで、こういうところに東洋的な叡智が遺憾無く発揮されているのである(と考えるべきだ)。
AIに話を戻そう。
西洋人は真正面から誠実に、理性の限界内で、AIの是非、人間の主体性を喪失するリスクについて熱く議論してしまう。
人間は動物と違う。動物と違って言語を使いこなすことができる。それで理性的に世界を表象し、世界を変革することにも成功してきたのだ。
しかし、その言語とか理性の部分を、まさにAIが代替しようとしている。
そうなると、人間は生身の肉体をもった存在として、どちらかというと動物寄りに己のアイデンティティを確立することを余儀なくされる。
とはいえ、一神教的信仰にもとづいて理性を人間性の根幹に据える西洋人にとって、人間性を動物性とのアナロジーで語ることは大スキャンダルである。
だから、AI導入には深い次元から反発が来る。人間の主体性や統御を失う気配への怯え、である。
「非言語も知性」と思えないところに、西洋の弱みがあると思う。
少なくとも、「非言語的な真理らしきもの」を根拠に前進することへの心理的抵抗が強い。オフィシャルな場で非言語的真理をうまく形にして実践する文脈が、あまり育ってはいない。
非言語=動物性であって、人間はそこから区別される。だがその人間の核にあるものを、AIが脅かしつつある。
そうすると人間は動物になるしかないのか!(絶望)
でも東洋なら、それに対して、「いや、それ単なる動物じゃなくて、別種の知性があるんですよ」「というか、動物こそユニークな仕方で知性を働かせているんですよ」と応じられる。
この感覚を自然に身につけているのが東洋の強みだ。
逆に西洋で、近年ZenとかKonMariとかマインドフルネスみたいなことが流行り出したのは、自分たちの文化に、非言語に一定の真理を見出す習慣と技法が著しく欠けていたことへの危機感の表れなのではないか。
そうだとすると、西洋は、21世紀にようやく「近代化」を果たすのかもしれない。
AIの脅威を受けて、従来の伝統的な人間観をアップデートし、AIによる「新しい近代」にうまく適応することができるか。19, 20世紀にアジアが頑張って近代化=西洋化したように、21世紀は西洋こそ近代化=東洋化することができるかどうか。
さもなくば、冒頭で言ったように、西洋は「沈没」するほかないだろう。
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